泌乳初期の高泌乳牛はルーメン内酪酸比と血中β?-ヒドロキシ酪酸で正の相関を示す
要約
泌乳初期の乳牛(12頭)を平均乳量で2つのグループに分けてルーメン発酵パラメーターと血液生化学性状を調べると、高泌乳牛のグループで総短鎖脂肪酸に対するルーメン内酪酸比と血中β?-ヒドロキシ酪酸(BHBA)に正の相関が認められる。
- キーワード:泌乳初期、乳牛、乳量、ルーメン発酵、血液生化学性状
- 担当:畜産研究部門・家畜代謝栄養研究領域・代謝・微生物ユニット
- 代表連絡先:電話 029-838- 8647
- 分類:研究成果情報
背景・ねらい
泌乳初期の乳牛では負のエネルギーバランス(NEB)による代謝障害が問題となっている。ルーメン発酵を適正に維持することはNEBを軽減して乳牛の生産性を維持する上で重要である。しかし、乳牛の泌乳能力の違いとルーメン発酵との関係はあまり調べられていない。そこで、泌乳初期のNEBが生産に及ぼす影響をルーメン発酵との関連性から解析することを目指し、ルーメン発酵パラメーター、血液生化学性状、乳量の関係性を明らかにする。
成果の内容・特徴
- 泌乳初期のホルスタイン種経産牛12頭からルーメン液と血液は分娩前3週、分娩後4、8、12週に採取し、ルーメン発酵パラメーターと血液生化学性状を分析する。乳量は分娩後12週まで記録するとともにその乳成分を分析する。
- 試験牛は平均乳量(38.5 kg/日)により2つのグループ(低泌乳(LY)グループ(平均乳量32.7 kg/日、標準偏差4.3 kg/日)と高泌乳(HY)グループ(平均乳量42.6 kg/日、標準偏差2.1 kg/日))に分け、ルーメン発酵パラメーター、血液生化学性状、乳量の関係性を分析する。
- 周産期において、ルーメン液の総短鎖脂肪酸に対する酢酸比とプロピオン酸比および酢酸:プロピオン酸比は両グループともに変化するが(P < 0.05)、酪酸比および酢酸:酪酸比はHYグループのみで変化する。血中コレステロール、BHBAおよびグルタミン酸オキサロ酢酸トランスアミナーゼはHYグループがLYグループよりも高値を示す。
- 主成分分析のベクトルは、乳量と乳成分についてはHYグループでは乾物摂取量と同じ方向を、LYグループでは逆の方向を示す(図1)。線形回帰分析において、HYグループで酪酸比と血中BHBA濃度に相関が認められる(図2)。
成果の活用面・留意点
- 泌乳初期におけるNEBの軽減に向けてルーメン発酵特性の特徴を明らかにすることで乳牛の生産性の向上を図ることを目的とした基礎的知見である。
- 試験牛へは同一の飼料を給与する必要がある。
- LYグループとHYグループは試験牛の平均乳量による区分である。
具体的データ

その他
- 予算区分:交付金、競争的資金(農食事業)
- 研究期間:2013~2016年度
- 研究担当者:三森眞琴、Sofyan Ahmad(筑波大)、大森英之、真貝拓三、平子誠、櫛引史郎、上野豊(信州大)、蓮沼俊哉(富山県農林水産総合技術センター)、秋山清(神奈川県畜産技術センター)、山本宏(石川県畜産試験場)、横川広明(茨城県畜産センター)、山口倫子(千葉県畜産総合研究センター)
- 発表論文等:Sofyan A. et al. (2016) Anim. Sci. J. doi:10.1111/asj.12745