多年生バイオマス作物における放射性セシウム濃度とガス化時のセシウムの回収

要約

収穫部位(茎葉部)に含まれる放射性セシウム濃度は自然減衰より早く経年低下し、2014年の移行係数は0.147以下で、茎葉部より地下茎部・根部で高い。バイオマスに含まれるセシウムはガス化系統及びガス精製系統で回収でき、精製ガスには混入しない。

  • キーワード:移行係数、ガス化、放射性セシウム、多年生バイオマス作物
  • 担当:畜産研究部門・飼料作物研究領域・飼料作物育種ユニット
  • 代表連絡先:電話 029-838-8647
  • 分類:研究成果情報

背景・ねらい

東京電力福島第一原子力発電所の事故によって土壌が放射性物質に汚染された地域において、非食用のセルロース系バイオマス作物を栽培し、再生可能エネルギーに変換する取り組みの検討が求められ、『避難指示区域における資源作物の生産及びエネルギー化に関する方針』(福島県農林水産部:2013年12月)が策定された。実用化に向けた技術開発のため、数種のバイオマス作物を用いて放射性セシウム濃度の経年変化、部位ごとの放射性セシウムの移行係数、およびセシウム安定同位体を添加したバイオマスのガス化及び燃焼時の挙動を解明し、実用化に向けた基礎データを取得する。

成果の内容・特徴

  • 2011年6月に畜産研究部門畜産飼料作研究拠点(栃木県那須塩原市)内試験圃場に不耕起定植した多年生バイオマス作物3種6系統、すなわち、オギ×ススキ種間雑種(Miscanthus ×giganteus)「イリノイ系」、ススキ(M. sinensis)「秋田にかほ系」「秋田釜ヶ台系」「阿蘇鍋平系」「阿蘇一宮系」、スイッチグラス(Panicum virgatum)「Kanlow」の収穫部位(地際から10cm以上の茎葉部)に含まれる放射性セシウム(134Cs+137Cs、以下同じ)濃度は、いずれも2014年までの4年間で低下し、その低下程度は自然減衰より大きい(図1)。
  • 2014年の放射性セシウムの移行係数(植物体乾物1kg当たりの放射性セシウム濃度/土壌乾物1kg当たりの放射性セシウム濃度)は、地下茎部及び根部において高く、茎葉部は低い(表1)。
  • 部分燃焼ガス化・発電プロセスのガス化系統及びガス精製系統を模した小規模実験装置において、セシウム安定同位体(133Cs)を添加したスギ(Cryptomeria japonica)木部の燃焼反応(酸素21%を供給)及びエリアンサス(Erianthus arundinaceus)の燃焼反応及びガス化反応(酸素0%を供給)では、原料に含まれるセシウムの大部分は模擬ガス化炉内の灰分として回収され、残り全量も模擬ガス精製系統内で回収される(図2、表2)。このため、精製ガスはセシウムを含有しない。

成果の活用面・留意点

  • 放射性セシウム汚染土壌において栽培された多年生バイオマス作物を利用するための知見として使用できる。
  • 作物に含まれる放射性セシウム濃度は、土壌中の放射性セシウム濃度のほか、土壌の種類、施肥・耕起等の栽培条件によって変化する。
  • 原料の化学的組成や反応後の微粒子の挙動がセシウムの分配に影響する可能性がある。小規模実験装置における測定精度の限界もあり、ガス化発電過程におけるセシウムの挙動解明の高精度化及び実用化に向けて、微粒子の捕捉技術開発を含めたスケールアップ試験が必要である。

具体的データ

図1 バイオマス作物の収穫部における放射性セシウム(134Cs+137Cs)濃度の経年低下と自然減衰との比較?表1 放射性セシウム(134Cs+137Cs)の部位ごとの移行係数及び土壌中濃度(2014年)?図2 ガス化発電システムのガス化系統・ガス精製系統を模した小規模実験装置

その他

  • 予算区分:交付金
  • 研究期間:2011~2014年度
  • 研究担当者:小林真、松本啓吾(三菱重工)、武野計二(豊田工業大)、松波寿弥、霍田真一、佐藤広子、安藤象太郎、大島義人(東京大)
  • 発表論文等:
    1)Kobayashi M. et al. (2013) Grassl. Sci. 59(3):173-181
    2)松本ら(2015)化学工学論文集、41(1):48-54
    3)Kobayashi M. et al. (2016) Grassl. Sci. 62(3):194-200