ラクトフェリンは角化細胞の分化とバリア機能形成を促進する

要約

表皮は生体への異物の侵入を防ぐバリアとして機能する。表皮を構成する角化細胞は基底層から解離して分化し、角質層を形成することでバリア機能を担う。ラクトフェリンはヒト角化細胞の分化を促進し、バリア機能を亢進させる。

  • キーワード:表皮、バリア機能、インボルクリン、フィラグリン、SREBP-1
  • 担当:畜産研究部門・畜産物研究領域・畜産物機能ユニット
  • 代表連絡先:電話 029-838-8647
  • 分類:研究成果情報

背景・ねらい

生体の最外層に位置する表皮は、アレルゲンや細菌などの異物の侵入を防ぐバリアとして機能する。表皮を構成する主な細胞である角化細胞は、分化に伴い基底膜から解離して表層に移行し、角質層を形成することでバリア機能を担う。アトピー性皮膚炎などの炎症性皮膚疾患を予防・治療するためには、表皮のバリア機能を維持・回復させ、外部からの異物(アレルゲン)の侵入を防ぐことが重要である。一方、乳に含まれる鉄結合蛋白質であるラクトフェリンは、抗菌活性や免疫賦活作用を持つ生体防御因子であることが知られている。本研究は、角化細胞の分化と、それに伴うバリア機能の形成に対するラクトフェリンの効果を示したものである。

成果の内容・特徴

  • 角化細胞など上皮系の細胞層において、頂端側と基底側との間の経上皮電気抵抗値(TER)は、バリア機能の指標として用いられる。ヒト由来株化角化細胞(HaCaT)をトランスウェル上に播種して分化誘導した場合、TERの上昇が観察される(図1)。ラクトフェリン添加によりTER値の上昇は促進される(図1)。この結果は、ラクトフェリンが角化細胞のバリア機能を亢進させたことを意味している。
  • HaCaTおよびヒト表皮角化細胞(NHEK)の分化誘導時にラクトフェリンを添加すると、分化マーカーであるインボルクリン、フィラグリン、Sterol regulatory element-binding protein-1 (SREBP-1)の発現が促進される(図2)。この結果は、ラクトフェリンが角化細胞の分化を促進したことを示している。なお、ラクトフェリンによるSREBP-1の発現促進は、角化細胞を増殖培地で培養した場合でも認められる(図2)。
  • HaCaTにおいてラクトフェリンによるインボルクリンとフィラグリンの発現促進効果はp38MAPK阻害剤であるSB203580によって阻害される(図3)。このことから、ラクトフェリンの角化細胞分化に対する促進効果はp38MAPKに依存していることが示唆される。角化細胞においてp38MAPK経路の活性化は、分化マーカータンパク質の発現を促進することが知られている。

成果の活用面・留意点

  • 本成果は細胞レベルでの検討によるものであり、皮膚バリア機能の促進に対するラクトフェリンの効果は、動物実験で確認する必要がある。
  • ラクトフェリンは乳中に含まれるタンパク質であり、食品添加物としてヨーグルトや粉乳に添加されている実績があるが、外用剤として塗布した場合の安全性については、別途検討する必要がある。

具体的データ

図1 HaCaTの分化に伴う経上皮電気抵抗値の上昇に対するラクトフェリンの促進効果?図2 角化細胞の分化マーカー発現に対するラクトフェリンの促進効果?図3 ラクトフェリン存在下における角化細胞分化マーカーの発現に対する各種キナーゼ阻害剤の効果

その他

  • 予算区分:競争的資金(科研費)、その他外部資金(SIP)
  • 研究期間:2014?2016年度
  • 研究担当者:高山喜晴、青木玲二、内田良(筑波大院生命環境)、田島淳史(筑波大院生命環境)、青木綾子
  • 発表論文等:Uchida R. et al., (2017) Biochem. Cell Biol. 95(1):64-68