卵巣から卵胞内卵子を効率的に吸引採取する器具の開発

要約

適正な吸引圧を維持することにより簡単に卵巣の卵胞内卵子を採取する器具を開発した。本器具は、本体とストッパー、ジョイント付きチューブで構成され、ヒト用痰吸引器に接続する。本器具の使用により効率的で安定的な体外受精卵の生産が可能となる。

  • キーワード:未成熟卵子、卵胞内卵子吸引採取、体外受精卵生産
  • 担当:畜産研究部門・家畜育種繁殖研究領域・家畜胚生産ユニット
  • 代表連絡先:電話029-838-8630
  • 分類:普及成果情報

背景・ねらい

高付加価値のエリート家畜の育種改良や増殖、生殖補助医療あるいは絶滅危惧種の動物等において、体外受精や受精卵移植技術は、基礎研究から産子生産まで広く用いられてきている。家畜では、一度に多数の体外受精卵を短期間に安価に生産するためには、食肉処理場由来卵巣の卵胞から採取された未成熟卵子を用いることが有効である。通常、卵子は、注射器を用いて卵胞から手動吸引して採取される。しかし、吸引圧が低いと卵子が採取されず、高いと体外成熟過程で必須である卵子周囲の卵丘細胞が剥離されて裸化されてしまうことから、適正な吸引圧を維持しながら採取することが重要である。さらに、長時間の卵胞吸引作業による疲労や手のひらの胼胝腫(べんちしゅ。いわゆるタコ)の発生も散見される。そこで、簡易かつ安定した吸引圧によって効率的に卵胞内卵子を吸引できる卵胞内卵子吸引採取器具を開発する。

成果の内容・特徴

  • 開発器具を用いることにより、適正な吸引圧を維持することにより、容易に卵胞内卵子を採取でき、効率的な体外受精卵生産が可能となる。
  • 開発器具区は、食肉処理場由来ウシ卵巣から卵丘細胞卵子複合体を採取する場合、対照区に比べて卵巣1個あたりの吸引時間が3/4に短縮され、卵子の回収率とその品質、体外受精卵の発生率は遜色のない成績が得られる(図2、表1)。
  • 開発した器具は、再利用が可能な本体とストッパー、ディスポーザブルの専用チューブで構成され、本体とストッパーは着脱可能で、ストッパーはそのスライド操作によりチューブの内部通路を開閉できるため、吸引動作と吸引停止が容易である(図1)。
  • チューブの先端にはジョイントがあり、ジョイントには注射針の針基をルアーロックにより接続固定でき、吸引針の刃先のカット面を一定の方向に維持できるため、卵胞内卵子吸引作業を安定して行える(図1)。
  • 圧力を調節可能なヒト用痰吸引器(約4万円)を用いることにより、適正な吸引圧(約120mmHg=約16kPa)に設定でき(図1)、既存の吸引ハンドピースと真空計による圧力調整弁付き卵子吸引捕集装置(定価214,000円)や生体内経腟卵子吸引装置(定価480,000円)の使用に比べて安価である。

普及のための参考情報

  • 普及対象:体外受精卵を生産する都道府県組織、団体、企業、家畜人工授精所、開業獣医師等、及び卵子を取り扱う試験研究機関、大学等
  • 普及予定地域・普及予定面積・普及台数等:全国、海外
  • その他:開発器具の使用により、術者による熟練度の問題が解消され、効率的で安定的な体外受精卵の生産が可能となる。また、使用時には、針先が卵巣実質内に存在する場合にのみ吸引圧をかけることで裸化卵子の割合を低減できる。販売価格として本体とストッパーは約10,000円/組、チューブは約200円/本を想定している。

具体的データ

図1 開発した卵胞内卵子吸引器具(本体、ストッパー、チューブ)の概要;図2 卵巣1個あたりの卵胞吸引時間および体外受精後の胚発生率;表1 卵子の回収率


その他

  • 予算区分:交付金、その他外部資金((財)伊藤記念財団)
  • 研究期間:2015~2017年度
  • 研究担当者:的場理子、御澤弘靖(ミサワ医科工業(株))、横山輝智香(熊本県農研セ畜産研究所)、伊藤愛(宮城県畜産試験場)、多治見紫織(多治見牛ETクリニック)
  • 発表論文等:的場ら「卵胞内卵子吸引採取器具」実用新案登録3213756号(2017年11月8日)