二ホンミツバチのドラフトゲノム

要約

ニホンミツバチの、全ゲノムの塩基配列情報を利用可能にする。セイヨウミツバチとのゲノム比較により、有用形質を遺伝子レベルで解析し、ニホンミツバチの持つ病気に強いなど有用な性質を活かし、養蜂種セイヨウミツバチの改良に貢献する。

  • キーワード:ニホンミツバチ、免疫関連遺伝子、ゲノム配列、次世代シーケンサー、遺伝子解析
  • 担当:畜産研究部門・家畜育種繁殖研究領域・有用遺伝子ユニット
  • 代表連絡先:電話029-838-8625
  • 分類:研究成果情報

背景・ねらい

ニホンミツバチはトウヨウミツバチの日本亜種であり、ほとんど人間による改良が行われていない(図1)。そのため、養蜂に利用されているセイヨウミツバチと比較すると、抗病性など多くの有用形質が残っていると考えられる。特に、ヘギイタダニとアメリカ腐蛆病に対する抵抗性を持ち、また、スズメバチに対する特殊な防御方法を持っている。このようなニホンミツバチの有用形質を遺伝子レベルで明らかにして育種に応用することにより、セイヨウミツバチにこれらの有用形質、例えば耐病性等、を付与することで、産業上有用なセイヨウミツバチ系統を作出することが期待できる。その第一歩として次世代シーケンサーを用いてニホンミツバチゲノムの全ゲノム配列を明らかにする。

成果の内容・特徴

  • 得られたゲノム配列は全長211M(約2億1千万)塩基対で、ニホンミツバチゲノムのすべてをカバーする。3つの異なるDNA配列読み取り方法(図2)で得られたデータを合わせることで、非常に精度の高い配列情報が得られる。
  • ゲノム情報から推測されたニホンミツバチの遺伝子数は13,222個で、セイヨウミツバチの10,157個、他のトウヨウミツバチの10,182~10,651個より多くの遺伝子が見つかっている(表1)。
  • 韓国のトウヨウミツバチのゲノムでは見つからなかったが、他の昆虫では一般的にみられる免疫に関わる遺伝子が複数見つかり、ニホンミツバチは他の昆虫と同様の免疫機構を持つことが示唆される(図3)。

成果の活用面・留意点

  • 得られたニホンミツバチのゲノム情報を、既に解読されているセイヨウミツバチのゲノム情報と比較することで、両種のミツバチヘギイタダニに対する行動の違い、病気に対する応答の違い、スズメバチに対する行動の違いなどについて、遺伝子レベルで解析することが可能となり、ゲノム育種の手法を用いてセイヨウミツバチの改良に貢献できる。
  • 塩基配列公共データベースDDBJから塩基配列は入手可能である(Acession No. DRR095707-DRR095709、BDUG0100001-BDUG1003315)。

具体的データ

表1 ニホンミツバチとセイヨウミツバチ、韓国トウヨウミツバチのゲノム比較,図1 ニホンミツバチ(左)とセイヨウミツバチ(右),図2 全ゲノム配列決定のスキーム,図3 セイヨウミツバチの既知の免疫遺伝群から推定したニホンミツバチの自然免疫遺伝子群(一部抜粋、黒抜き白字は韓国のトウヨウミツバチでは未同定)

その他

  • 予算区分:交付金、その他外部資金(東京農業大学生物資源ゲノム解析センター「生物資源ゲノム解析拠点」共同研究事業)
  • 研究期間:2016~2018年度
  • 研究担当者:木村澄、横井翔、内山博允(東農大)、若宮健(京産大・現東北大)、芳山三喜雄、高橋純一(京産大)、野村哲郎(京産大)、古川力(東農大・現ヤマザキ動物看護大学)、矢嶋俊介(東農大)
  • 発表論文等:Yokoi K. et al. (2018) Eur. J. Entomol. 115:650-657 doi:10.14411/eje.2018.064