チーズ熟成中の遊離アミノ酸生成を促進する乳酸菌
要約
熟成チーズより分離された非スターター性乳酸菌Lactobacillus paracasei EG9株は、補助スターターとしてチーズ原料乳に添加することによりチーズ熟成中の遊離アミノ酸生成を促進する。
- キーワード:チーズ、熟成促進、非スターター性乳酸菌、Lactobacillus paracasei、遊離アミノ酸
- 担当:畜産研究部門・畜産物研究領域・乳製品開発ユニット
- 代表連絡先:電話029-838-8013
- 分類:研究成果情報
背景・ねらい
チーズの熟成は低温で長期間行うため、コストがかかると同時に熟成庫の空容積がなく製造を控えざるを得なくなる問題があり、熟成庫の回転を上げるための熟成期間短縮技術の開発が求められている。チーズ熟成時には乳タンパク質が分解されてアミノ酸が生成するほか、脂肪や有機酸の分解等により様々な呈味成分と香気成分が生成する。そこで、本研究では長期熟成チーズに生息し熟成進行に関与すると考えられる非スターター性乳酸菌を単離し、これを補助スターターとしてチーズ原料乳に添加することにより、熟成中の遊離アミノ酸生成に及ぼす影響を明らかにする。
成果の内容・特徴
- 長期熟成チーズ9種から形成されたコロニー100個の菌種を表1に示す。このうちチーズv由来のLb. paracasei EG9株は、スターター菌種ではなく非スターター性乳酸菌と推定できる。
- 10°C培養時に、標準株Lb. paracasei JCM 8130T株は1.7%NaCl添加により生育が抑制されるのに対して、EG9株は0%NaClと同様に生育する(図1)。EG9株はチーズ熟成条件である10°C、1.7%NaCl下の生育に有利な特性を保持している。
- 乳酸発酵スターターとしてLactococcus lactis 712株を用い、補助スターターとしてEG9株を添加したチーズでは、EG9株は製造時から熟成30日まで菌数が増加する。EG9株添加区の熟成180日の総遊離アミノ酸含量が非添加区の約2.7倍になることから、熟成期間短縮に繋がる(図2)。
- EG9株添加区はpHと水分が有意に低く、Texture Profile AnalysisのHardnessは有意に高い。
成果の活用面・留意点
- EG9株を、補助スターターとしては過剰量の1×107cfu/mL添加した試験結果である。
- 乳酸発酵スターターとしてLc. lactis 01-1株を用いても、EG9株添加区の熟成180日の総遊離アミノ酸含量は、非添加区の約1.5倍になる。
- EG9株は単菌では牛乳中で生育しにくいため、本試験ではMRS培養菌体を集菌して用いた。MRS培地は試験研究用のため、食品製造に応用するには培養法を検討する必要がある。
具体的データ

その他
- 予算区分:交付金
- 研究期間:2012~2017年度
- 研究担当者:野村将、斉木理彩(筑波大)、萩達朗、成田卓美、小林美穂、佐々木啓介、朝比奈唯(筑波大)、田島淳史(筑波大)
- 発表論文等:Saiki R. et al. (2018) Food Sci. Technol. Res. 24(2):299-309