排せつ物のリサイクルに立脚する牧草生産全体から発生する温室効果ガスのLCA

要約

牧草栽培、排せつ物処理、肥料製造、機械作業を含めた牧草生産システム全体から発生する温室効果ガスは、スラリー施用より堆肥施用の方が少ない。

  • キーワード:永年草地、一酸化二窒素、二酸化炭素、メタン、ライフサイクル分析(LCA)
  • 担当:畜産研究部門・草地利用研究領域・草地機能ユニット
  • 代表連絡先:電話029-838-8647
  • 分類:研究成果情報

背景・ねらい

排せつ物のリサイクルに立脚する牧草生産では、牧草栽培(土壌)、排せつ物処理、肥料製造、機械作業(トラクタ)から、一酸化二窒素(N2O)、二酸化炭素(CO2)、メタン(CH4)が発生する。そこで、牧草生産における排せつ物のリサイクルが、温室効果ガス発生量に及ぼす影響を適切に評価するには、牧草生産システム全体から発生するガス3種の総合評価が不可欠である。本研究は、スラリーまたは堆肥を最大限に施用する牧草生産システム全体から発生する温室効果ガスを総合評価し、定量的に示すことを目的とする。

成果の内容・特徴

  • 本成果は、排せつ物のカリウム濃度を基に、イネ科単播草地に、スラリーまたは堆肥を施用上限値(それぞれ66、38t ha-1 year-1)まで施用し、不足成分を施肥で補填する牧草生産システム全体の温室効果ガス発生量を、牧草栽培(土壌)、排せつ物処理、肥料製造、機械作業(トラクタ)をシステム境界、草地面積1haまたは乾物収量1tを機能単位とするライフサイクルインベントリ分析で評価した結果である(図1)。
  • 牧草栽培(土壌)では、スラリー施用より堆肥施用の方が、草地1haへの有機物の投入量が多いがCO2発生量は少ない。また、N2O発生量は同等で、CH4発生量はわずかである。地球温暖化係数(CO2:1、CH4:25、N2O:298)を考慮すると、牧草栽培(土壌)から発生する温室効果ガスは、スラリー施用より堆肥施用の方が少ない(図2)。
  • 排せつ物処理過程から発生する温室効果ガスを草地1ha当たりに換算すると、N2O、CH4、処理過程の燃料消費から発生するCO2のいずれも、スラリーより堆肥の方が多い。このため、排せつ物処理から発生する温室効果ガスは、後者の方が多い(図3)。
  • 草地1haへの施肥量は、スラリー施用より堆肥施用の方が多いため、肥料製造から発生する温室効果ガスは、後者の方が多い(図3)。
  • 草地1haにスラリーまたは堆肥を施用(表面散布)し、牧草(スラリー施用、堆肥施用とも、乾物で約9t ha-1 year-1で同等)を収穫するための燃料消費は同等であるため、機械作業(トラクタ)から発生する温室効果ガスは同等である(図3)。
  • 以上を総合評価すると、牧草栽培システム全体から発生する温室効果ガスは、スラリー施用より堆肥施用の方が、草地面積1ha当たり36%(6.9t-CO2-eq、図3)、乾物収量1t当たり41%(0.89t-CO2-eq、図4)少ない。

成果の活用面・留意点

  • 牧草生産における排せつ物(乳牛)のリサイクルにおいて、温室効果ガス排出を削減する観点から堆肥施用の優位性を示す科学的根拠として利用できる。
  • 栃木県那須塩原市のオーチャードグラス採草地における実測値、日本国温室効果ガスインベントリ報告書、主要作目の作業体系におけるエネルギー消費原単位、LCA手法を用いた農作物栽培の環境影響評価実施マニュアルなどの資料に基づく評価結果である。

具体的データ

図1 排せつ物を利用する牧草生産から発生する温室効果ガスのライフサイクルインベントリ分析におけるシステム境界,図2 牧草栽培から発生する温室効果ガス(GHG)GHG収支=GHG発生量-投入排せつ物と作物残渣中の有機物のCO2換算量,図3 牧草生産全体から発生する温室効果ガス,図4 乾物収量当たりの温室効果ガス発生量

その他

  • 予算区分:交付金、委託プロ(温暖化適応・異常気象対応)
  • 研究期間:2008~2018年度
  • 研究担当者:森昭憲
  • 発表論文等:
    • Mori A. (2018) Atmosphere 9(7):261
    • Mori A. and Hojito M. (2015) Soil Sci. Plant Nutr. 61(4):736-746
    • Mori A. and Hojito M. (2015) Soil Sci. Plant Nutr. 61(2):347-358