遺伝子選抜による地鶏の増体性改良効果は、一般生産農場でも暑熱環境下でも発揮される

要約

コレシストキニンA受容体遺伝子の特定遺伝子型で選抜した岐阜県の「奥美濃古地鶏」の増体性改良効果は、暑熱環境下でも発揮され、夏季の体重増加を改善する。同様の選抜を行った宮崎県の「みやざき地頭鶏」の増体性改良効果は、一般生産農場においても発揮される。

  • キーワード:マーカー選抜育種、「奥美濃古地鶏」、「みやざき地頭鶏」、暑熱環境、一般生産農場
  • 担当:畜産研究部門・家畜育種繁殖研究領域・有用遺伝子ユニット
  • 代表連絡先:電話 029-838-8625
  • 分類:過年度普及成果情報(2018年度)

背景・ねらい

「地鶏肉の日本農林規格」に基づいて生産されているコマーシャル(CM)地鶏は、地域の特産品として定着している。CM地鶏は、ブロイラーと比較して飼育期間が長く、食鳥処理場では出荷体重のキロ単価で取引されるため、生産者からは、肥育期間短縮や出荷体重増を求められている。この要望に応えるため、コレシストキニンA受容体(CCKAR)遺伝子の一塩基多型(SNP、AまたはC)を優良型(A)に固定すると、4県のCM地鶏(「比内地鶏」、「奥美濃古地鶏」、「天草大王」、「みやざき地頭鶏」)の発育性が改善されることを報告している(2018年度普及成果情報)。これらの肥育試験は、飼育環境が比較的斉一な県の研究所または試験場で実施されたが、本研究では、暑熱環境下で飼育した場合(「奥美濃古地鶏」)や、一般生産農場に寄託した場合(「みやざき地頭鶏」)でも、増体性改良効果が発揮されるのか明らかにする。

成果の内容・特徴

  • 岐阜県の「奥美濃古地鶏」は、従来鶏では夏季(7月の平均気温29.6°C)には冬季に比べて平均出荷体重が778.9g軽くなるが、改良鶏(優良SNP固定鶏)では660.7gの減少に抑えられる(図1)。
  • 宮崎県の「みやざき地頭鶏」は、一般生産農場(A、B)に寄託した改良鶏の平均出荷体重が、同農場の従来鶏より雄で102.9g、雌で133.0g重くなる(図2)。A農場では、雌雄共、改良鶏の出荷体重が有意に重く、B農場では雄の出荷体重が有意に重い(図3)。

普及のための参考情報

  • 普及対象:地鶏生産を担う都道府県の公設場所、家畜改良センター、地鶏生産者団体等。
  • 普及予定地域・普及予定面積・普及台数等:平成30年度の「奥美濃古地鶏」と「みやざき地頭鶏」の餌付け羽数は、それぞれ126,244羽、564,040羽。宮崎県は、2020年度7月までに、全ての「みやざき地頭鶏」を改良鶏に置き換える予定である。年間出荷羽数を45万羽と仮定すると、32,908千円の生産者の農業粗収益の増加が見込まれる。
  • その他:
    • 「奥美濃古地鶏」は、岐阜県畜産研究所養豚・養鶏研究部関試験地のウィンドレス鶏舎で、雄雌共、84日齢まで飼育された(夏季2018年5月23日~8月15日、冬季2018年11月27日~2019年2月19日)。2018年6月、7月、8月(1~15日)の平均気温は、それぞれ23.5°C、29.6°C、30.4°Cであり、夏季最高気温は7月18日の39.6°Cである。従来鶏の優良SNP(A)の頻度は0.398、改良鶏は1.0である。
    • 「みやざき地頭鶏」は、宮崎県畜産試験場川南支場で2018年7月12日に孵化した7日齢のひなを、宮崎県日南市の2つの一般生産農場に寄託した。「みやざき地頭鶏飼育管理マニュアル」にしたがって飼育され、オス126日齢、メス163日齢で出荷された。従来鶏の優良SNP(A)の頻度は0.675、改良鶏は1.0である。

具体的データ

図1 「奥美濃古地鶏」の増体性改良効果に及ぼす季節の影響,図2 一般生産農場における「みやざき地頭鶏」の増体性改良効果,図3 「みやざき地頭鶏」の従来鶏と改良鶏の出荷体重の実測値比較

その他

  • 予算区分:交付金、その他外部資金(27補正「地域戦略プロ」)
  • 研究期間:2017~2019年度
  • 研究担当者:
    髙橋秀彰、石川寿美代(岐阜畜研)、浅野美穂(岐阜畜研)、酒井喜義(岐阜畜研)、中山広美(宮崎畜試)、堀之内正次郎(宮崎畜試)、安藤忠弘(みやざき地頭鶏事業協)
  • 発表論文等:
    • Ishikawa et al. (2019) J. Poult. Sci. 57(2):107-113
    • Horinouchi et al. (2020) J. Poult. Sci. doi:10.2141/jpsa.0190127