CO2センサーを駆動できる初めての微生物燃料電池システム

要約

安価で長期運転に耐える微生物燃料電池と、その電力を効率的に回収するエナジーハーベスタを組み合わせた微生物燃料電池システムであり、CO2センサーを駆動できる。本システムは湖沼など水のある環境に設置でき、外部電源を必要としない自立駆動型センサーの電源として利用できる。

  • キーワード:微生物燃料電池、CO2、地球温暖化、環境モニタリング、長距離無線データ送信
  • 担当:畜産研究部門・畜産環境研究領域・水環境ユニット
  • 代表連絡先:電話 029-838-8647
  • 分類:普及成果情報

背景・ねらい

地球温暖化や異常気象などの気候変動に対する懸念から、地球規模での環境モニタリングの重要性が高まっている。精密な気候変動の解析では、気温や湿度、CO2濃度などの環境情報を多くの地点で測定することが望まれる。多数の地点で測定を行う場合、測定装置を駆動させる電源の確保が問題になる。微生物燃料電池(Microbial fuel cell; MFC)は、その電源として注目されている。MFCは、発電細菌が土壌や池などに含まれている有機物を分解して発電するバイオ電池である。太陽光と風力も電源として利用できるが、これらの電源は夜間や無風では発電が困難であり、さらにパネルの定期的な清掃などメンテナンスが必要である。MFCは天候に依存せずに24時間発電できる。しかし、従来型のMFCは作製コストが高く、劣化しやすい欠点がある。MFCでセンサーを駆動させるためには出力電圧を上昇させるエナジーハーベスタが必要であるが、既存品の変換効率は低く実用化の障害になっている。CO2センサーの駆動には温度センサーなどと比較して大きな電力が必要なため、これまでMFCを電源としてCO2センサーの駆動に成功した報告はない。そこで、本研究では低コストで耐久性があるMFCと高効率なエナジーハーベスタを開発して、CO2センサーを駆動できる実用的なMFCシステムを構築する。

成果の内容・特徴

  • 開発したMFCは、湖沼や河川など水がある環境に設置する。炎酸化ステンレス鋼製の負極(H28研究成果情報)を土壌中に挿入して、正極を水面に浮かべた構造である(図1)。炎酸化ステンレス鋼負極は既存のカーボン電極よりも安価(1/10~1/100)で高出力、物理的強度も高い。このMFCは白金触媒やH+交換膜など高価で劣化し易い部材を一切使用していないので、長期運転に耐える実用的な構造である。設置後のメインテナンスは特段必要なく、太陽光発電などと比較して維持管理が容易な利点がある。水槽に土を入れて840cm2の負極を埋設したMFCは、最大で86μWの電力が得られた。本システムは畜産研究部門つくばにある池に設置して、野外でも発電できることを確認している(図1)。
  • 新規エナジーハーベスタは、制御ICでMFCから引き出す電流値を最適化して電力をキャパシタに蓄えながら出力電圧を上昇させる(図2)。MFCでセンサーを駆動させるためには出力電圧を3 V以上に上昇させる必要がある。出力8μWのMFCを電源としてキャパシタの昇圧実験を行ったところ、従来型(1と2)では電圧を3.3 Vまで上昇できなかったが、新規エナジーハーベスタは3.3 Vまで昇圧できる(図3)。キャパシタを3.3 Vまで昇圧させるのに必要な最小のMFC電力を解析したところ、わずか2μWであり、これまで報告されている値(100~5,000μW)と比較して非常に低い。これは低出力で小型、低コストのMFCからでも利用可能な電力を引き出せる高性能なエナジーハーベスタであることを示している。
  • 本MFCシステムは、炎酸化ステンレス鋼負極を備えたMFCと新規エナジーハーベスタの2つの技術を組み合わせた装置である。本システムはCO2センサーの駆動に初めて成功した。最大出力86μW のMFCを用いた場合、35分間に1回の間隔で測定が可能である。本システムは10 km以上の長距離に測定データを無線送信するLoRaモジュールや温度湿度センサー、LED、位置情報を送信するビーコンモジュールなど様々なアプリケーションモジュールも駆動できる。
  • 本MFCシステムは、外部電源が不要な自立駆動型の環境モニタリング装置の電源として利用できる(図4)。地球上の多数の湖沼や河川に環境モニタリング装置を設置してCO2濃度や気温、水温などの環境情報データを収集すれば、地球温暖化や異常気象の解析、湖沼の環境モニタリングにに有用である。

普及のための参考情報

  • 普及対象:CO2センサーなど各種の測定機器を製造販売する民間企業
  • 普及予定地域・普及予定面積・普及台数等:全国の湖沼や河川
  • その他:本MFCシステムを作製するのに必要な材料費(MFCとエナジーハーベスタのみ、センサーを含まず)は、数千円程度である。センサー/IoT関連企業がMFCシステムの試作機を作製済みであり、農研機構と共同で市販化に向けたフィールド試験を行っている。エナジーハーベスタの制御ICは旭化成エレクトロニクスから2020年度中の販売を予定している。環境や自然エネルギーを学ぶ教材としての用途も想定される。気温の低い冬季では微生物の活性が低下するので、MFC出力が低下して測定間隔が長くなる可能性がある。

具体的データ

図1 微生物燃料電池システムの概要図と畜産研究部門つくばの池に設置した装置の写真,図2 エナジーハーベスタのブロック図と写真,図3 新規エネジーハーベスタによるキャパシタの充電実験,図4 MFCを唯一の電源とした自立駆動型の環境モニタリング装置の概要図。

その他

  • 予算区分:交付金
  • 研究期間:2015~2019年度
  • 研究担当者:
    横山浩、山下恭広、粟津督央(旭化成エレクトロニクス)、岩崎弘文(旭化成エレクトロニクス)、林哲平(旭化成エレクトロニクス)
  • 発表論文等:
    • Yamashita T. et al. (2019) J. Pow. Sources. 430:1-11
    • 横山ら「微生物燃料電池用電極およびその製造方法、ならびに微生物燃料電池」特許第6429632号 (2018年11月9日)