ご当地乳酸菌チーズスターターと地域ブランドチーズ
要約
地場産食品等からチーズ熟成を促進する乳酸菌を選抜し、「うま味増強、熟成促進」を特徴とする国産"ご当地乳酸菌"チーズスターターを開発するとともに、本品を補助スターターとして用いて地域ブランドチーズ創出を図る。
- キーワード:チーズ、チーズスターター、地場産食品、乳酸菌、熟成促進
- 担当:畜産研究部門・畜産物研究領域・乳製品開発ユニット
- 代表連絡先:電話 029-838-8013
- 分類:普及成果情報
背景・ねらい
チーズの総消費量はここ10年間で24万tから35万tに増加しており、チーズが国民の食生活に浸透していることが示されている。しかし、ナチュラルチーズに換算したチーズ総消費量のうち国産割合は、19.4%から13.6%に低下しており、国産ナチュラルチーズの消費拡大のために、高付加価値化や輸入チーズとの差別化が求められている。酪農家などがチーズ製造に取り組む際には、原料乳の生産地や乳牛の飼養方法などが製品差別化の要素となりうる。しかし、乳発酵食品である熟成型チーズの製造において、乳酸発酵を行わせるチーズスターター(メインスターター;乳酸菌など発酵用微生物の凍結乾燥粉末等)や、チーズの特徴付けに添加される補助スターターは輸入品が利用されており、安価な外国産ナチュラルチーズとの明確な差別化が難しい。一方、チーズ製造には数ヵ月の熟成期間を要するため、熟成庫の容積により製造量が制限されることが大きな問題であり、熟成期間短縮技術の開発が求められている。そこで本研究では地場産食品等から乳発酵能が高く、チーズ熟成を促進する能力を有する乳酸菌を選抜し、「うま味増強、熟成促進」を特徴とする"ご当地乳酸菌"チーズスターターを開発する。さらに本品を熟成促進のための補助スターターとして用いることで、地域らしさの付加など乳酸菌の特徴を生かした物語性のある地域ブランドチーズの創出を目指す。
成果の内容・特徴
- チーズ熟成促進効果のある乳酸菌として、北海道産食品由来のLactobacillus paracasei OUT0010、Lactobacillus curvatus 33-5、Lactobacillus rhamnosus P-17、および栃木県食品由来のL. curvatus OY-57の4菌株を特許出願し、ご当地乳酸菌チーズスターターとしての技術移転が可能である。
- ご当地乳酸菌を市販チーズスターターと混合培養し、乳酸発酵への影響を調べたところ、試験区では比較区よりも総乳酸菌数が多くなることからpH低下の開始は早いものの、低下速度は変わらず、最終到達pHも同じである。したがって、ご当地乳酸菌4菌株は市販チーズスターターの乳酸発酵を阻害せず、過度なpH低下を引き起こさない(図1)。
- ご当地乳酸菌を補助スターターとして添加し試験製造したミニゴーダチーズでは、熟成1ヵ月及び2ヵ月ともに、うま味を呈するグルタミン酸濃度が、無添加の従来品より高い(図2)。また順位法による官能評価では、熟成1ヵ月及び2ヵ月ともに、L. paracasei OUT0010添加にて製造した試験チーズの順位が1位となっている(表1)。
- 熟成2ヵ月及び3ヵ月目の従来品および試験チーズについて、消費者型官能評価を実施したところ、L. paracasei OUT0010を添加したチーズが最も高い評価を得たことから、本菌を市販チーズスターターと同じ凍結乾燥技術で凍結乾燥粉末状に加工し、チーズ製造事業者にてゴーダチーズの実規模製造を実施している。実規模製造したゴーダチーズでは、製品内部に発泡等の異常は見られない(図3)。
普及のための参考情報
- 普及対象:チーズ工房、普及指導機関
- 普及予定地域・普及予定面積・普及台数等:全国のチーズ工房及びこれからチーズ製造に取り組みたい経営体。特に北海道、栃木県、茨城県など。
- その他:ご当地乳酸菌チーズスターターは、"Jチーズスターター"と呼称して広報を開始している。凍結乾燥粉末状に加工したL. paracasei OUT0010は、チーズ製造事業者が従来の市販チーズスターターと同じ使用方法で使用できる。
具体的データ

その他
- 予算区分:その他外部資金(28補正「経営体プロ」)
- 研究期間:2017~2019年度
- 研究担当者:小林美穂、野村将、萩達朗、林田空、木元広実、守谷直子、佐々木啓介、中島郁世、鈴木チセ、八十川大輔(道総研)、葛西大介(とかち財団)、高谷政宏(とかち財団)、住佐太(オホーツク地域振興機構)、武内純子(オホーツク地域振興機構)、小林秀彰(オホーツク地域振興機構)、福澤明里(オホーツク地域振興機構)、太田裕一(オホーツク地域振興機構)、大坪雅史(函館地域産業振興財団)、清水健志(函館地域産業振興財団)、鳥海滋(函館地域産業振興財団)、林美貴成(栃木県畜酪研究セ)、豊田知紀(栃木県畜酪研究セ)、酒向佑輔(栃木県畜酪研究セ)、渡邉ゆずは(栃木県畜酪研究セ)、野口宗彦(栃木県畜酪研究セ)、星一美(栃木県畜酪研究セ)、森瞳(栃木県畜酪研究セ)、中村正(帯畜大)、高屋朋彰(小山高専)、北村亨(雪印種苗(株))
- 発表論文等:小林ら、特願(2019年10月29日)