ペットボトル等の活用による家畜飲水槽の凍結抑制システム

要約

飲料用のペットボトルと発泡スチロールビーズにより、家畜飲水槽の凍結が抑制できる。飲水槽に隣接して簡易ビニールハウスを設け、その中に給水タンクを設置し、低温時間帯に一定間隔で飲水槽とタンクの間で水循環を行うことで、凍結抑制効果はさらに高まる。

  • キーワード:周年放牧、家畜飲水、凍結抑制、ペットボトル(プラスチックボトル)、発泡スチロールビーズ
  • 担当:畜産研究部門・草地利用研究領域・草地管理ユニット
  • 代表連絡先:電話 0287-37-7000
  • 分類:研究成果情報

背景・ねらい

耕作放棄地等における放牧では、家畜の飲水確保が必須である。とりわけ周年放牧では、冬季の飲水管理の省力化も重要な課題である。冬季は飲水槽の凍結により、放牧牛が長時間にわたり飲水できない状況となり、その対策のために農家は毎日、飲水槽の氷を割るなどの労力を要することになる。
そこで本研究では、これらの課題を解決するため、農家等が容易に入手できる資材で比較的簡易に構築できる家畜飲水槽の凍結抑制法を開発する。

成果の内容・特徴

  • 本システムの基本は、一般的な飲料用のペットボトル(500~600mL)に発泡スチロールビーズ(直径2~3mm)を約半容量入れ、飲水槽の水面をできるだけ覆うようにペットボトルを浮かべる方法である(図1)。
  • 発泡スチロールビーズ入りペットボトルのみで凍結抑制が困難な場合、飲水槽に隣接して給水タンクを設置し、夜間の低温時間帯に一定時間間隔(20分ごとに2分間)で直流小型水中ポンプにより飲水槽の水を給水タンクに戻し、水を循環させる(水循環方式)ことで、凍結抑制効果を高められる(図2)。給水タンクはビニールで覆い、加えて簡易ビニールハウス内に設置することで、給水タンクの水温を高める工夫を行っている。
  • ペットボトル間の隙間において凍結は生じるが、日中に隙間の氷が少しずつ溶ければ、ペットボトルは容易に分散できるようになる。ペットボトルの利用により一定の凍結抑制効果が得られる。さらに、ペットボトルと夜間の水循環を組み合わることで、1日の気温変化特性にもよるが、最低気温-10°C前後の状況においても飲水槽の凍結が抑制できる(図3)。
  • 放牧牛は飲水槽のペットボトルをとくに警戒することはなく、特段の馴致作業は必要ない。また、ペットボトルの飲み込み事故など、放牧牛の安全上の問題もない(図4)。

成果の活用面・留意点

  • 本成果は、周年放牧等において冬季の飲水槽の凍結が懸念される地域の簡易凍結防止法として活用できる。
  • 夜間の水循環における低温時間帯や水循環間隔の設定は、地域の気候特性によって異なる。また、利用する飲水槽の規模によっても凍結の特性が異なるため、これらの条件整備が今後の課題として残されている。
  • 水源が確保できる現地では、農研機構が2015年に発表した「耕作放棄地放牧等における省力的家畜飲水供給システム」を導入することにより、飲水管理のさらなる省力化が可能である。

具体的データ

図1 基本システムの概略,図2 水循環機能のイメージ,図3 システムによる飲水凍結抑制効果,図4 実際の放牧地における飲水状況

その他

  • 予算区分:交付金、その他外部資金(28補正「AIプロ」)
  • 研究期間:2016~2019年度
  • 研究担当者:中尾誠司、手島茂樹
  • 発表論文等:
    • 中尾(2020)日草誌、65:273-281