乳用牛を1日長く飼養する経済価値

要約

乳用牛群の産次ごとの生存率を変化させ、生存率1%当たりおよび生産期間1日当たりの経済価値を推定する。生存率1%上昇で生産期間が、北海道で26.5日、都府県で20.3日延長し、生産期間を1日あたりの年間所得の増加は、北海道で95.18円、都府県で101.80円である。

  • キーワード:乳用牛、生存率、生産期間、経済価値、シミュレーション
  • 担当:畜産研究部門・家畜育種繁殖研究領域・家畜育種ユニット
  • 代表連絡先:電話 029-838-8625
  • 分類:研究成果情報

背景・ねらい

乳用牛は乳量などの生産性を中心に改良が進められてきたが、生産性の高い牛は長く飼養することが難しいとされ、近年では長く飼養することが可能で、生涯生産性の高い牛が求められている。生涯生産性を高めるためには、生産性と生産期間(初産分娩から除籍までの期間)をバランス良く改良することが重要だが、生産期間の経済価値が不明であるために、生産性との改良のバランスを考える根拠が不明確であることから、生産期間の経済価値の推定法の開発が求められている。
そこで、本研究ではシミュレーションにより、産次ごとの生存率を現状から-5%~5%の範囲で1%ごとに変化させたときの、生産期間、年間乳量、管理コストの変化を計算する方法を開発する。このシミュレーションを用いて、生存率を1%上げたときの生産期間、年間乳量、管理コストの変化を明らかにするとともに、生存率1%当たりの経済価値と、飼養期間1日あたりの経済価値を明らかにする。

成果の内容・特徴

  • 生産期間は、生存率が1%上昇すると、北海道で26.5日、都府県で20.5日延長する(表)。
  • 生存率の上昇による利益の増加は、生産期間の延長による減価償却費の減少の効果が大きく、次に獣医師料及び医薬品費の減少の効果が大きい。
  • 搾乳牛1頭あたり・年あたりの利益は、生存率が1%上昇すると、北海道で2,526.4円、都府県で2,065.3円増加する(図1)。
  • 搾乳牛1頭あたり・年あたりの利益は、生産期間が1日延びると、北海道で95.2円、都府県で101.8円増加する(図2)。

成果の活用面・留意点

  • 飼養期間の効果を円で示すことで、乳量などの生産性形質と経済効果を直接比較できるようになる。
  • 生存率の変化に対して、生乳販売収入、子牛販売収入、減価償却費、人工授精費、獣医師料及び医薬品費は直線的に変化することから、生存率に対する直線回帰の傾きが生存率あたりの収入および経費の変化量である。子牛販売頭数は産次数と同じである。
  • 生存率1%増加したときの生産期間の増加量で、他の形質の生存率1%あたりの変化量を割ったものが、生産期間1日あたりの変化量である。
  • 年あたりの利益は、収入(生乳販売収入+子牛販売収入)から経費(減価償却費+人工授精費+獣医師料及び医薬品費)を引いたものである。ただし、生乳販売収入は、減価償却費、人工授精費、獣医師料及び医薬品費以外の経費を控除したものである。
  • 収入および経費は、2013~2015年度の農林水産省農業経営統計調査畜産物生産費の平均値を用いた。

具体的データ

表1 生存率1%あたりおよび生産期間1日あたりの増加量(搾乳牛1頭あたり),図1 生存率と年あたりの利益との関係,図2 生産期間と年あたりの利益との関係

その他

  • 予算区分:交付金、戦略プロ(家畜育種手法)
  • 研究期間:2017~2019年度
  • 研究担当者:佐々木修、武田尚人、西浦明子
  • 発表論文等:Sasaki O. et al. (2019) Anim. Sci. J. 90:323-332