牛尾根部腹側体表温の測定に基づく分娩予知技術
要約
接触面の温度を測定するセンサにより、妊娠末期の牛尾根部腹側体表温を連続的に測定し、分娩の接近を予知する技術である。体の中枢の体温(深部体温)の測定と同様に分娩前の特異的な体温変化を確認することができ、かつ深部体温の測定と比べて低侵襲的に分娩監視を行うことができる。
- キーワード:分娩予知、体表温度、センシング、牛
- 担当:畜産研究部門・草地利用研究領域・放牧家畜ユニット
- 代表連絡先:電話 029-838-8630
- 分類:研究成果情報
背景・ねらい
持続的な肉牛・酪農経営において安定した子牛生産は重要であり、分娩事故による子牛および繁殖雌牛の損耗を防ぐことの意義は大きい。分娩監視は分娩事故による牛母子の損耗を防ぐ重要な飼養管理技術であるが、時間および労力において農家に多大なコストを要する。分娩監視作業を省力化するべく、これまでに動物装着型の体温・行動センサを用いて分娩前の特異的な体温・行動変化をもとに分娩を予知する技術が開発されてきた。なかでも深部体温を測定できる腟温センサが広く用いられてきたが、温度センサを長期間にわたり腟内に留置することへの衛生面の懸念から、より侵襲性の低い分娩予知技術の開発が求められている。そこで、本研究では体内留置をともなわずに使用可能な体表温センサによって妊娠末期の繁殖雌牛の体温を測定し、既存の体温・行動センサと同様に分娩予知が可能かを検討する。
成果の内容・特徴
- 本技術では、接触面の温度を測定するセンサを用いて牛尾根部腹側体表温を連続的に測定する(図1)。センサの装着には体内への留置や外科的手術をともなわない。
- 分娩前7日間の肉用繁殖牛において、体温センサから得られた体表温・腟温および行動センサから得られた脚部の活動量・歩数を日単位で比較すると、体表温と腟温は分娩2日前に有意に低下するのに対し、活動量と歩数は分娩1日前に有意に増加する(表1)。
- 分娩前48時間の肉用繁殖牛において、体温センサから得られた体表温・腟温および行動センサから得られた脚部の活動量・歩数を時間単位で比較すると、体表温と腟温は分娩約30時間前に有意に低下するのに対し、活動量と歩数は分娩約15時間前に有意に増加する(図2)。
- 以上の結果から、分娩前の牛尾根部腹側体表温を測定することで、腟温測定と比べて低侵襲的に、かつ腟温測定と同様に24時間以上の猶予をもって分娩を予知できる可能性がある。
成果の活用面・留意点
- 本成果は肉用牛(黒毛和種・交雑種)のみによって検証されている。一般に分娩前における体温低下のタイミングや程度は肉用牛と乳用牛で異なるため、乳用牛の分娩予知に適用する場合は別途検証が必要である。
- 直腸温・腟温のような深部体温と異なり、体表温は末梢部の体温であることから、外気温に対する感受性が高い。季節や飼養環境(屋外飼育)によっては外気温の影響に注意する必要がある。
- 生産現場で使用するにあたり、今後例数を増やして予測性能を示す必要がある。
具体的データ

その他
- 予算区分:交付金、AIプロ(家畜疾病早期発見)
- 研究期間:2017~2019年度
- 研究担当者:三輪雅史、阪谷美樹、松山秀一(名古屋大)、中村翔(岡山理科大)
- 発表論文等: