胚性シグナルを介した新たな牛の妊娠認識機構

要約

牛の妊娠認識機構の新たな知見として、妊娠すると子宮で6つのケモカイン(CCL2、CCL8、CCL11、CCL14、CCL16、CXCL10)、黄体でペルオキシソーム増殖因子活性化受容体およびチトクロームP450c21、血球で2つのケモカイン(CCL8およびCXCL10)の遺伝子発現が変化する。

  • キーワード:牛、繁殖、妊娠、ケモカイン、遺伝子
  • 担当:畜産研究部門・家畜育種繁殖研究領域・繁殖性向上ユニット
  • 代表連絡先:電話 029-838-8630
  • 分類:研究成果情報

背景・ねらい

牛が妊娠すると受胎産物(胚)から分泌されるインターフェロンタウ(IFNT)を中心とする胚性シグナルを介して、母体内で様々な生理的変化が生じると考えられているが、その詳細は未だ不明な点が多く残されている。そこで、本研究では妊娠初期(15および18日)の生殖器官(子宮、黄体)や血液(白血球)における遺伝子発現変化をマイクロアレイ解析等により網羅的に解析し、妊娠特異的に変化する因子を特定することで、牛の妊娠認識機構の詳細を明らかにする。

成果の内容・特徴

  • 妊娠15および18日の牛子宮内膜では、非妊娠と比較してそれぞれ344および1336個の遺伝子発現が変化する。特に、6つのケモカイン(CCL2、CCL8、CCL11、CCL14、CCL16、CXCL10)の発現が有意に高くなる(図1)。
  • 妊娠15および18日の牛黄体では、非妊娠と比較してそれぞれ30および266個の遺伝子発現が変化する。そのうち、発現が最も増加するのはペルオキシソーム増殖因子活性化受容体(PPARD)であり、最も減少するのはチトクロームP450c21遺伝子(CYP21A2)である(図2)。
  • 血球のCCL8およびCXCL10の遺伝子発現が妊娠18日で非妊娠と比較して有意に高くなる(図3)。
  • 妊娠認識機構の新たな知見として、妊娠初期に牛の受胎産物(胚)から分泌されるIFNTなどのシグナルが、子宮内膜の6つのケモカイン発現を増加させ、血球のCCL8、CXCL10、ならびに黄体のPPARD、CYP21A2発現を変動させる(図4)。

成果の活用面・留意点

  • 牛の妊娠認識機構の新たな知見として、妊娠成立メカニズムの解明につながる。
  • 血球におけるCCL8、CXCL10遺伝子発現が、妊娠牛では人工授精後18日に増加することから、早期妊娠診断の指標としての活用が期待できる。

具体的データ

図1 妊娠15および18日の牛子宮内膜における6種類のケモカイン遺伝子の発現動態,図2 妊娠15および18日の牛黄体におけるPPARDとCYP21A2遺伝子の発現および局在,図3 人工授精後14~18日の妊娠牛と非妊娠牛における血球CCL8およびCXCL10の遺伝子発現動態,図4 胚から分泌されるIFNTによるケモカインを介した新たな妊娠認識機構(模式図)

その他

  • 予算区分:交付金、委託プロ(繁殖サイクル)、競争的資金(科研費)
  • 研究期間:2015~2019年度
  • 研究担当者:作本亮介、林憲悟、細江実佐、伊賀浩輔、古澤軌、木崎景一郎(岩手大)
  • 発表論文等:
    • Sakumoto R. et al. (2017) Int. J. Mol. Sci. 18:742
    • 作本亮介(2017)畜産技術、751:2-7
    • Sakumoto R. et al. (2018) J. Anim. Sci. Biotech. 9:46
    • Sakumoto R. et al. (2020) J. Reprod. Dev. 66:205-213