雄牛の加齢に伴って変化する精子DNAメチル化可変部位
要約
ヒト用メチル化マイクロアレイで解析することにより採取した雄ウシの加齢と共に変化する精子DNAメチル化可変部位(dCpG)を抽出できる。個々のdCpGのメチル化レベルの簡易評価法により受精に伴う変化の特徴や、精液を採取した雄ウシの年齢の推定が可能となる。
- キーワード:エピジェネティクス、雄ウシ、加齢、精子、DNAメチル化
- 担当:畜産研究部門・家畜育種繁殖研究領域・家畜胚生産ユニット
- 代表連絡先:電話 029-838-8630
- 分類:研究成果情報
背景・ねらい
近年、ウシの受胎率低下が問題となっている。従来の評価法では正常とされても人工授精に使用した場合に低受胎となる精液(種雄牛)が存在し、その要因解明や新しい評価法の開発が求められている。我々はDNA修飾のひとつであるメチル化に注目し、ヒト用DNAメチル化マイクロアレイを利用したDNAメチル化可変部位(dCpG)の抽出に取り組んだところ、雄ウシの加齢と共に変化する精子DNAメチル化可変領域の存在を発見した。そこで、本研究では加齢の指標となるdCpGの特定と、その特徴を明らかにするためにメチル化レベルの簡易評価法を開発する。
成果の内容・特徴
- ウシ精子DNAの網羅的メチル化状態をヒト用DNAメチル化マイクロアレイ(イルミナ社、EPIC)で評価すると、採取月齢の違いによって変化するdCpGを抽出することが可能である (図1)。
- Combined Bisulfite Restriction Analysis (COBRA)法で9箇所のdCpGのDNAメチル化レベルの簡易評価が可能である(図2)。
- 9箇所のうち8箇所のdCpGのDNAメチル化レベルは加齢に伴って上昇し、1箇所は下降する。これらの精子DNAメチル化レベルの変化量は雄ウシの加齢と共に少なくなる(図3)。
- メチル化の加齢変化との関連性の高い上位3箇所の精子DNAメチル化レベルから、採取した雄ウシの年齢の推定が可能である(R2=0.879)。
- 精子の9箇所のdCpGうち7箇所は受精後に脱メチル化され、胚盤胞期胚の受精卵に雄ウシの加齢の影響はみられない(図4)。
成果の活用面・留意点
- 簡易評価に使用するdCpGの数が多いほど雄ウシの年齢推定値の正確性が増す。
- これら9箇所のdCpGはウシ精子においてのみ加齢の指標となることを確認しており、凍結精液を採取した雄ウシの年齢が推定できる。
- 加齢変化を伴うdCpGについて今後、エピジェネティック・クロックとしての精子評価や体外受精胚評価への利用が期待できる。
具体的データ

その他
- 予算区分:交付金、競争的資金(科研費)、その他外部資金(伊藤記念財団研究助成)
- 研究期間:2015~2019年度
- 研究担当者:
武田久美子、小林栄治、赤木悟史、渡邊伸也、西野景知(茨城県畜産セ)、今井昭(広島県畜技セ)、安達広通(岐阜県畜産研)、岩尾健(鳥取県畜試)、星野洋一郎(京都大農)、金田正弘(農工大院農)
- 発表論文等:
- Takeda K. et al. (2019) J. Reprod. Dev. 65:305-312
- Takeda K. et al. (2017) J. Reprod. Dev. 63:279-287
- Kobayashi E. and Takeda K. (2016) J. Anim. Genet. 44:45-52