ガラス化冷却保存したベトナム在来種のブタ未成熟卵母細胞に由来する胚盤胞の作出

要約

マイクロドロップ法によるガラス化冷却保存技術はベトナムの在来種であるバン(Ban)種豚の未成熟卵母細胞にも有効であり、加温後に体外成熟と体外受精を行うことにより、高い生存率と胚盤胞発生率を得ることができる。本技術は、他地域在来種や希少品種への応用が期待できる。

  • キーワード:ベトナム在来種豚、ジーンバンク、卵母細胞、ガラス化冷却保存、マイクロドロップ法
  • 担当:畜産研究部門・家畜育種繁殖研究領域・家畜胚生産ユニット
  • 代表連絡先:電話 029-838-8630
  • 分類:研究成果情報

背景・ねらい

ブタ未成熟卵母細胞のガラス化冷却保存技術は開発されて間もないが、育種改良や増産の目的だけでなく、遺伝資源の保存(ジーンバンク)という観点からその意義が高まっている。その背景には近年のASF(アフリカ豚コレラ)に代表される疾病の流行があり、ベトナムではすでにASFのためにいくつかの在来種は危機的状況にある。それらの在来種豚の未成熟卵母細胞をガラス化冷却技術で超低温保存することができれば、疾病の蔓延に備える有効な手段となりうる。ベトナムの在来種豚の繁殖特性についてはまだ不明な点が多いことから、ベトナム北部で飼育されているバン(Ban)種豚をと殺し、まず未成熟卵母細胞の回収効率や回収される卵母細胞の品質を調べる必要がある。また、ブタ卵母細胞の超低温保存の問題点として豊富な脂質含有量との関連が指摘されていることから、脂質含量についても調べる。正常な卵母細胞が回収されることが判明した後、マイクロドロップ法を使ったガラス化冷却保存を実施し、加温後の生存性および体外成熟、体外受精、胚発生の成績についてランドレース×大ヨークシャー交雑種を対照区として比較する。

成果の内容・特徴

  • バン種の卵巣は、ランドレース×大ヨークシャーの交雑種の卵巣よりも小さいが、回収される未成熟卵母細胞の数、その品質やサイズには遜色がない(表1)。
  • 未成熟卵母細胞の細胞内脂質を脂質染色(ナイルレッド)して共焦点レーザー顕微鏡で観察すると、ランドレース×大ヨークシャー交雑種に比べてバン種では有意に脂質含有量が少ない(図1)。
  • ガラス化冷却後に加温したバン種の未成熟卵母細胞とランドレース×大ヨークシャー交雑種の未成熟卵母細胞では、生存率、卵母細胞成熟率、卵割率、胚盤胞発生率は同等である(表2、図2)。

成果の活用面・留意点

  • ベトナム在来種豚の未成熟卵母細胞の超低温保存と胚盤胞の作出が可能であったことから、ガラス化冷却保存によって他の地域の在来種や希少品種の卵母細胞を保存できるものと期待される。
  • バン種とランドレース×大ヨークシャー交雑種では卵母細胞の脂質含有量は有意に異なるものの、ガラス化冷却後の成績については同等である。
  • バン種の未成熟卵母細胞をガラス化冷却保存する場合、7~8ヶ月齢のブタの直径1~3mmの卵胞に含まれる卵母細胞を使用するのが好ましい。

具体的データ

表1. バン種およびランドレースX 大ヨークシャー交雑種の卵巣からの未成熟卵母細胞の採集と基本データ,表2. ガラス化冷却後に加温した未成熟卵母細胞の生存率および体外成熟体外受精胚発生の成績,図1. バン種(A)およびランドレース×大ヨークシャー交雑種 (B)の未成熟卵母細胞の脂質小海(ナイルレッド染色)と 相対蛍光強度(C)
,図2. ガラス化冷却保存後に加温したバン種の卵母 細胞に由来する胚盤胞

その他

  • 予算区分:交付金、競争的資金(地球規模課題(SATREPS)ベトナム在来豚)
  • 研究期間:2017~2019年度
  • 研究担当者:ソムファイ タマス、菊地和弘
  • 発表論文等: