暑熱ストレスはブロイラーの消化管上皮を直接的に傷害する

要約

暑熱ストレスによるブロイラーの消化管上皮の傷害は、飼料摂取量低下に起因せず、暑熱曝露により直接的に引き起こされる。

  • キーワード:ブロイラー、暑熱ストレス、ペアフェッド、腸管形態、腸管透過性
  • 担当:畜産研究部門・家畜代謝栄養研究領域・家禽代謝栄養ユニット
  • 代表連絡先:電話 029-838-8684
  • 分類:研究成果情報

背景・ねらい

夏季の暑熱環境はブロイラーの飼料摂取量や増体重を低下させ、生産性に悪影響を及ぼす。消化管は暑熱ストレスによるダメージを受けやすい臓器であり、暑熱環境下のブロイラーにおいて消化管上皮の損傷や機能の低下が起こることが知られている。一方、飼料摂取制限や絶食も消化管の発達や機能の成熟に悪影響を与えることが報告されている。しかし、暑熱環境下におけるブロイラーの消化管上皮の傷害が暑熱曝露により直接的にもたらされるのか、もしくは暑熱時の摂取量低下により間接的にもたらされるのか、その詳細ついては明らかでない。そこで本研究では、暑熱ストレスによる消化管の傷害がどのようにもたらされるのか、暑熱曝露した鶏と同量の飼料を摂取させるペアフェッド試験を実施し検証することを目的とする。

成果の内容・特徴

  • 4週齢ブロイラーを適温区(24°C)、暑熱区(33°C)、ペアフェッド区(暑熱区と飼料摂取量を同等にした24°Cにおける制限給餌区;6時間毎に暑熱区の摂取量を測定し給与)の3区に分け、暑熱曝露12時間、24時間、72時間における消化管上皮への影響を評価する。消化管上皮の損傷は十二指腸における絨毛の高さと陰窩の深さの比率を指標とし、腸管透過性は血液への内毒素流入を指標とし評価する。
  • 暑熱曝露12時間、24時間、72時間、いずれの曝露時間においても、暑熱ストレスにより飼料摂取量、増体量、飼料効率は低下する(表1)。摂取量制限(ペアフェッド)では増体量は低下するが、飼料効率は低下しない(表1)。
  • 暑熱曝露12時間では消化管への傷害は観察されないが、曝露24時間および72時間では暑熱ストレスにより絨毛:陰窩比が低下し、腸管透過性も上昇する(図1、図2)。このような変化は摂取量制限(ペアフェッド)では認められない(図1、図2)。
  • 以上のことから、暑熱ストレスによる消化管上皮の傷害は、暑熱曝露24-72時間において、飼料摂取量低下に起因せず、暑熱曝露により直接的に引き起こされる。

成果の活用面・留意点

  • 暑熱時の消化管傷害の緩和には、暑熱曝露により誘導される低酸素ストレスや酸化ストレスを低減できる飼料資材の添加が有効で、その添加は12時間以内が望ましいことを示唆するものであり、栄養管理による暑熱ストレス対策技術開発のための基礎的知見として活用できる。
  • 夜間の気温低下など日内の気温変化や湿度変化の影響は加味されていない。
  • より長期的な暑熱曝露と摂取量制限の消化管傷害への影響については今後の検討課題である。

具体的データ

表1 暑熱曝露がブロイラーの飼料摂取量、増体量、飼料効率に及ぼす影響,図1 暑熱曝露が十二指腸の絨毛:陰窩比に及ぼす影響,図2 暑熱曝露が血液中内毒素濃度に及ぼす影響

その他

  • 予算区分:交付金
  • 研究期間:2018~2019年度
  • 研究担当者:原文香、喜久里基(東北大)、大和田修一(東北大)、豊水正昭(東北大)
  • 発表論文等:Hara-Nanto F. et al. (2019) J. Poultry Sci. doi:10.2141/jpsa.0190004