豚肉の喫食時に知覚される主要な感覚要素とその経時変化

要約

経時的優位感覚法(Temporal dominance of sensations, TDS法)を用いて豚肉の喫食時に感じられる代表的な食感、味および香りを経時的に解析した結果から、喫食中に感じられる主要な感覚を示す本成果は、違いに基づいた豚肉の差別化に有用な情報となる。

  • キーワード:食肉、豚肉、官能評価、経時的有意感覚法(TDS法)、官能特性
  • 担当:畜産研究部門・畜産物研究領域・食肉品質ユニット
  • 代表連絡先:電話 029-838-8684
  • 分類:研究成果情報

背景・ねらい

近年、各地域において「おいしさ」に特徴のあるブランド食肉の開発が行われている。ブランド化において「おいしさ」を付加価値要素とするためには、「食べてわかる違い」に基づいた差別化が必要となる。一方、食肉は喫食時に食感、味および香りが複合的に知覚され、かつ、その感じ方は経時的に変化する。よって、食肉を特徴づける感覚を明らかにするためには、食肉を喫食時に複合的に感じられる感覚の中から、特に注意を引き付ける主要な感覚要素を経時的に明らかにする必要がある。
そこで、本研究ではサンプルの喫食時に最も注目を引き付ける官能特性を選択する官能評価手法である「経時的優位感覚法(Temporal dominance of sensations, TDS法)」を用いて豚肉の喫食時に感じられる主要な食感、味および香りを解析し、焼き調理をした豚肉の官能特性に主として寄与する感覚要素を明らかにする。

成果の内容・特徴

  • 「焼く」調理を行った7種類の豚肉サンプルの官能特性を予備実験で選択した10種の用語(図1)を用いて、訓練した14名のパネリストによる3反復の評価をTDS法で行った。それぞれの豚肉について各時点で各感覚用語が選択された確率を図2のように計算して得た曲線(TDS曲線)は、代表例として図3のようになる。
  • 7種類の豚肉サンプルのTDS曲線から作成した、焼き調理をした豚肉の喫食時に知覚される感覚の経時変化の概念図は図4の通りである。
  • 喫食開始直後は食感を表す用語である「かみ切りやすい・変形しやすい」もしくは「かみ切りにくい・変形しにくい」が有意水準を超えて知覚される(図4)。
  • 喫食開始10秒以降は、「パサパサ」、「うま味」、「ジューシー」、「脂肪の口溶け」、「なめらか」、「酸味」および「けものくさい」といった感覚が知覚される(図4)。「パサパサ」と「うま味」は7種全てのサンプルで知覚されるが、それ以外の感覚はサンプルによって知覚の有無が異なる。
  • これらのことから、上記の感覚要素が豚肉の喫食時に主として知覚されることが示され、豚肉の官能特性の主要な評価指標として有望な特徴である。

成果の活用面・留意点

  • 本知見は国産豚肉の喫食時に主として知覚される感覚を明らかにしていることから、豚肉の品質評価の際の指標や品質表示項目等に活用できる。
  • 本研究では豚肉をオーブンによる「焼き」調理を行っていることから、異なる調理方法を行った豚肉においては注意が必要である。

具体的データ

図1 PC画面上に表示された豚肉の官能特性を表現する用語集,図2 TDS曲線算出方法の概念図,図3 豚肉の喫食時に知覚された感覚の経時的な変化を示す曲線(TDS曲線)の代表例,図4 豚肉の喫食時に知覚される感覚の経時変化の概念図

その他

  • 予算区分:交付金、委託プロ(地域戦略プロ)
  • 研究期間:2016~2019年度
  • 研究担当者:
    渡邊源哉、大森英之、田島清、佐々木康仁(岩手県農研セ)、脇屋裕一郎(佐賀県畜試)、本山三知代、中島郁世、佐々木啓介
  • 発表論文等:Watanabe G. et al. (2019) J. Sci. Food Agric. 99:5516-5525