背脂肪厚の異なるブタ品種間における脂肪関連遺伝子の発現および血液成分の違い

要約

遺伝的に背脂肪が厚いブタ品種は薄いブタ品種に比べて脂肪細胞が肥大化しているが、脂肪細胞自体の脂肪合成・分解能力に両品種間差はない。背脂肪厚の異なる両品種では、皮下脂肪組織におけるアディポネクチンとその受容体遺伝子の発現量および血糖値、血中中性脂肪濃度に差がある。

  • キーワード:ブタ、背脂肪厚、皮下脂肪組織、アディポネクチン、血液成分
  • 担当:畜産研究部門・畜産物研究領域・食肉品質ユニット
  • 代表連絡先:電話 029-838-8684
  • 分類:研究成果情報

背景・ねらい

豚枝肉取引規格において背脂肪厚が重要な評価項目であることから、育種改良と飼養管理の両面からブタの皮下脂肪量の制御が試みられているが未だに原因遺伝子は解明されていない。背脂肪厚に顕著な差を有するブタ品種を用いて比較することは、背脂肪厚に影響する因子の特定につながる。
そこで本研究では、遺伝的に背脂肪厚が薄い西洋系品種(薄脂型)と厚い中国系品種(厚脂型)を純粋種(薄脂型=「ランドレース」、厚脂型=「梅山豚」)および交雑種(薄脂型=三元交雑種×「ランドレース」、厚脂型=三元交雑種×「梅山豚」)の両方を用いて同じ飼養条件下で比較することにより、背脂肪厚の違いをもたらしている要因を明らかにする。

成果の内容・特徴

  • 生後3ヶ月齢の純粋種では薄脂型と厚脂型の間に背脂肪厚の有意な差は認められないが、5ヶ月齢の交雑種では薄脂型に比べて厚脂型の方が背脂肪は有意に厚くなる(図1)。
  • 生後3ヶ月齢の純粋種では、薄脂型に比べて厚脂型の方が背脂肪内層を構成する脂肪細胞の直径は有意に大きく、厚脂の要因は脂肪細胞の数よりも肥大化にある(図2)。
  • 生後3ヶ月齢の純粋種および5ヶ月齢の交雑種ともに脂肪細胞の肥大化に直結する転写因子、脂肪合成関連遺伝子、脂肪分解関連遺伝子、脂肪取込み関連遺伝子や脂肪酸化関連遺伝子について薄脂型と厚脂型における発現量差は皮下脂肪組織で認められない(表1)。
  • 純粋種および交雑種ともに皮下脂肪組織において、薄脂型に比べて厚脂型のアディポネクチン(ADIPOQ)遺伝子発現量は低く、その受容体1(ADIPOR1)の遺伝子発現量は高い(表1)。
  • 生後3ヶ月齢の純粋種および5ヶ月齢の交雑種ともに薄脂型に比べて厚脂型の血清中グルコース濃度は低く、トリグリセリド濃度は高い(表2)。

成果の活用面・留意点

  • 遺伝的に背脂肪厚の異なるブタ品種の特徴を示す共通の基盤的知見として活用できる。但し、発育過程にある肉用豚が対象であり、繁殖豚のような成豚については別途検討する必要がある。
  • 背脂肪厚の異なるブタ品種間でアディポネクチン、アディポネクチン受容体の遺伝子発現量および血液成分に差が認められたことは、薄脂型と厚脂型の原因は両品種におけるエネルギー代謝の違いにあることを示唆するものであり、これらが直ちに改良指標となりうるものではない。
  • アディポネクチンは脂肪細胞特異的に産生される分泌タンパク質であることから、将来的には遺伝子発現解析に依存しないタンパク質レベルでのアディポネクチン量の測定により、飼養中のブタの脂肪蓄積を推定する技術開発が期待できる。

具体的データ

図1 遺伝的に背脂肪厚の異なる品種間の背脂肪厚の比較,図2 遺伝的に背脂肪厚の異なる品種間の背脂肪内層由来の脂肪細胞直径の比較,表1 遺伝的に背脂肪厚の異なる品種間の皮下脂肪組織における遺伝子発現の比較,表2 遺伝的に背脂肪厚の異なる品種間の血液成分の比較

その他

  • 予算区分:交付金、委託プロ(アグリゲノム)
  • 研究期間:2008~2018年度
  • 研究担当者:中島郁世、小島美咲、大江美香、尾嶋孝一、室谷進、柴田昌宏、千国幸一
  • 発表論文等: