乳生産における量的関係を説明可能にする乳牛飼養の新指標

要約

乳牛飼養において「第一胃内液相の理論回転率」という概念的な指標を提案する。この指標を用いることで、第一胃内発酵産物の濃度情報を量的情報に変換するとともに、乾物摂取量、第一胃内発酵で生じる短鎖脂肪酸量、および乳量の量的関係性を論理的に説明できる。

  • キーワード:乳牛、乾物摂取量、乳量、第一胃内発酵、新指標
  • 担当:畜産研究部門・家畜代謝栄養研究領域・代謝・微生物ユニット
  • 代表連絡先:電話 029-838-8654
  • 分類:研究成果情報

背景・ねらい

乳牛の飼養管理では、乾物摂取量、脂肪補正乳量、および代謝体重といった変動要因があり、これらは飼料効率の向上を図る上で欠かせない。日本飼養標準では、乳牛に必要な乾物摂取量を推定するために、これらを関連づけた推定式を提供している。しかし、推定式は乳牛管理の実測値から導き出された関係性であり、また、牛の飼料消化システムが特殊であるため、上記関係性を論理的に説明できない。一方、第一胃内発酵で生じるメタンは、乾物摂取量や第一胃内発酵産物等との量的な関係性評価が進んでいる。
そこで、本研究ではメタンの量的関係性を組み入れた「第一胃内液相の理論回転率」(以下TTOR)という、新しい概念的指標を提案する。これを利用して、乾物摂取量、第一胃内発酵で生じる短鎖脂肪酸量、および乳量について関連付けを試み、実測値で検証する。

成果の内容・特徴

  • 指標であるTTOR、および推定第一胃内体積(以下PRV)は以下の算出式を用いる。
    TTOR(L/day/代謝体重) = PRV / 代謝体重
    PRV(L/day) = MY(mol/day) / RM(mM) /1000
    MY =(乾物摂取量から算出されるガス体のメタン産生量、既知の算出式)
    RM =(第一胃内液中の各短鎖脂肪酸濃度から算出される総メタン産生量、既知の算出式)
    総短鎖脂肪酸生成量(mol/day) = 短鎖脂肪酸濃度(mM)x PRV (L/day)
  • ホルスタイン種経産牛11頭を分娩前3週目から分娩後12週目まで飼養管理し、乾物摂取量、乳量、体重を測定する。また、分娩前3週、分娩後4、8、12週目に第一胃内容液、血液、乳を採取し成分分析する。得られた定量値をTTORの評価に用いる。
  • 乾物摂取量は、ルーメン液中の短鎖脂肪酸濃度との相関は低いものの(図1a)、PRVを関連づけた総短鎖脂肪酸生成量との間には強い相関が得られる(図1b)。同様に、乾物摂取量と乳量との間の相関は低いが(図2a)、TTORを関連づけることで強い相関が得られる(図2b)。これにより乳生産における量的関係を直線関係で説明できるようになった。
  • 乳量とTTORの間には最適範囲の存在が示唆される(図3)。
  • 第一胃内pH (pH5.8以下の1日当たりの時間エリア)とTTORの間には直線的な関係が認められる(図4)。

成果の活用面・留意点

  • 本指標を用いることで、乳牛における各種生産情報の関連付けが可能である。飼料効率の論理的な理解にも有用である。
  • TTORは第一胃内液相の希釈率等とは異なる概念的な指標である。

具体的データ

図1 乾物摂取量(DMI)と第一胃内短鎖脂肪酸濃度(a)、およびPRVを関連づけた後の総短鎖脂肪酸生成量(b)との関係,図2 乾物摂取量(DMI)と乳量との関係(a)、およびTTORを関連づけた後の関係(b),図3 TTORと乳量の関係,図4 TTORとpH5.8以下の1日当たりの時間

その他

  • 予算区分:交付金、競争的資金(イノベ創出強化)
  • 研究期間:2018~2019年度
  • 研究担当者:
    三森眞琴、蓮沼俊哉(富山県農技セ)、沖村朋子(富山県農技セ)、真貝拓三、小林洋介、平子誠、櫛引史郎
  • 発表論文等:Mitsumori M. et al. (2019) Anim. Sci. J. 90:1556-1566