高泌乳牛のルーメン微生物相ではアミノ酸代謝とビタミン代謝関連遺伝子の出現率が高い

要約

分娩前後の飼料摂取量が同じ牛を高泌乳牛群および低泌乳牛群に分けて、ルーメン微生物相、ならびにそれらの代謝酵素遺伝子群を比較すると、高泌乳牛群のルーメン内では一部のプロピオン酸産生菌の割合が高く、分娩後はアミノ酸とビタミン代謝関連遺伝子の出現率が高まる。

  • キーワード:乳牛、周産期、ルーメン発酵、ルーメン微生物相、泌乳量
  • 担当:畜産研究部門・家畜代謝栄養研究領域・代謝・微生物ユニット
  • 代表連絡先:電話 029-838-8654
  • 分類:研究成果情報

背景・ねらい

乳牛管理において、泌乳量が急増する分娩後2ヶ月間の栄養管理は重要である。この時期は、乳牛生理や飼料摂取量が変化するだけでなく、ルーメン微生物相の群集構造も大きく変化し、ルーメン内の代謝経路や発酵産物に影響する。飼料摂取量や乳生産に応じた飼養・栄養管理を最適化するためには、この時期のルーメン微生物相、および代謝経路の変化についての特徴を理解する必要がある。
本研究では、分娩前後の飼料摂取量が同じにも関わらず乳生産量が異なる高泌乳牛群および低泌乳牛群を対象に、分娩後のルーメン細菌群集構造およびルーメン内代謝の特徴を明らかにする。

成果の内容・特徴

  • 高泌乳牛群のルーメン細菌群集構造は、分娩前後を通してBacteroidetes門の割合が高く、一部のプロピオン酸産生菌の割合が高い(Prevotella bryantii等のPrevotella属、Succinivibrio属、Fibrobacter属等)。
  • 分娩前後の飼料摂取量が同じにも関わらず、分娩後の高泌乳牛群におけるルーメン内代謝では、アミノ酸代謝(アラニン・アスパラギン酸・グルタミン酸、およびシステイン・メチオニン)、およびビタミン代謝(キノン類生合成、およびビタミンB6)に関する遺伝子群の出現率が低泌乳牛群よりも高く、また分娩前に比べても高い(表1、2)。一方、分娩後の低泌乳牛群では、これら遺伝子群の出現率が分娩前よりも低下する(表2)。

成果の活用面・留意点

  • 2016年度成果情報「泌乳初期の高泌乳牛はルーメン内酪酸比と血中β-ヒドロキシ酪酸で正の相関を示す」における高泌乳牛群のルーメン微生物相を低泌乳牛群と比較解析した結果で、高・低の泌乳牛群は試験牛の平均乳量に基づく区分である。
  • 乳牛における、栄養管理の参考情報として活用できる。
  • ルーメン内代謝における遺伝子出現率は、細菌群集構造から推定された結果であり、定量的評価とは異なる。

具体的データ

図1 代謝関連遺伝子群出現率の牛群間比較,表2 代謝関連遺伝子群出現率の分娩前後での比較

その他

  • 予算区分:交付金、競争的資金(科研費)
  • 研究期間:2016~2019年度
  • 研究担当者:
    三森眞琴、Ahmad Sofyan(筑大)、上野豊(信大)、真貝拓三、平子誠、櫛引史郎、金森裕之、森聡美、片寄裕一
  • 発表論文等:Sofyan A. et al. (2019) Anim. Sci. J. 90:1362-1376