チオ硫酸ナトリウムを利用した硫黄脱窒反応による生物脱臭装置の窒素除去能強化技術

要約

大谷石を担体として用いた生物脱臭装置の循環水槽に、硫黄源としてチオ硫酸ナトリウムと、アルカリ源として炭酸カルシウムを添加することで、硫黄脱窒反応を利用して生物脱臭装置の循環水中の窒素濃度を低減できる。生物脱臭装置からの脱臭廃水中の窒素を低減するために有効である。

  • キーワード:生物脱臭、大谷石、硫黄脱窒、チオ硫酸ナトリウム、炭酸カルシウム
  • 担当:畜産研究部門・畜産環境研究領域・大気環境ユニット
  • 代表連絡先:電話 029-838-8673
  • 分類:研究成果情報

背景・ねらい

家畜ふん尿の堆肥化の過程で、ふん尿中の窒素の約6~45%程度に相当する窒素がアンモニアとして発生し、臭気や環境への窒素負荷の原因となっている。堆肥化施設の後段に生物脱臭装置を設置し、微生物による硝化反応と脱窒反応を利用してアンモニアを処理可能である。しかし、循環水型の装置内では硝化反応が優先し、アンモニウム並びに亜硝酸あるいは硝酸の形態で窒素が蓄積し脱臭性能が低下するため、散水により窒素を洗い流す、あるいは脱臭担体の交換が必要である。このため、脱臭廃水の簡易な処理技術の開発が求められている。
一方、有機物/窒素比の低い畜産汚水の処理に、独立栄養細菌である硫黄脱窒細菌を利用した窒素除去技術の有効性が示されている。脱臭装置での利用を考えた場合、従属栄養の脱窒細菌と比べ汚泥発生量が少なく、脱臭装置内での閉塞の心配が少ないといった利点がある。そこで、本研究では、生物脱臭技術に硫黄脱窒反応を付与し、窒素除去能を強化する技術の開発を目指し、低コスト資材である大谷石を脱臭担体として用い、脱窒のための硫黄源としてチオ硫酸ナトリウムを添加した場合に循環水中の窒素濃度低減へ与える影響を明らかにする。

成果の内容・特徴

  • 本技術は、アンモニアの吸収と硝化が主な反応である生物脱臭装置について、電子供与体としてチオ硫酸ナトリウムを硫黄源として加えることで、硫黄脱窒反応を付与し、窒素除去能を強化させることをねらいとしている(図1)。
  • 20°C恒温室内で、脱臭装置に活性汚泥を添加した大谷石を充填し、窒素容積負荷約41g N/m3/日でアンモニアを下部から連続的に通気し、水を1日から数日おきに循環散水した(図2)。脱臭試験1において、循環水貯留槽に硫黄源を添加すると、添加後数日で硫酸生成を伴う亜硝酸、硝酸の循環水の濃度の減少がみられる(図3)。また、pHの低下とアンモニウムイオンの蓄積がみられる(図3)。アンモニア酸化細菌を含むNitrosomonadaceae科の存在割合が18%低下しており、pHの低下によりアンモニア酸化細菌が利用できる形態である非イオン態のアンモニア濃度が低下するため、アンモニア酸化が阻害されることが原因であると考えられる。
  • 図2の装置を用いた同様の脱臭試験で、硫黄源添加区で硫黄源無添加区に対して循環水の無機態窒素量が減少するが、循環水のpHを散水時に中性付近に維持すると、弱アルカリ側に保った方が窒素除去量は多く推移する(脱臭試験2の期間I;図4)。Nitrosomonadaceae科の存在割合は硫黄源無添加区と比較してpH6.7とpH7.7に維持した場合でそれぞれ1.4倍と1.6倍に増加する。pH調整のためには、炭酸カルシウムを添加することで循環水中のpHを平均7.4に維持でき、窒素濃度は硫黄源無添加区と比較し、32~39%低減できる(脱臭試験2の期間II;図4)。なお、硫黄源添加により、硫黄酸化脱窒菌を含むThiobacillus属の16S rRNA遺伝子の担体中の存在割合は、0.001%以下から0.009% (0.004~0.016%)に増加する。

成果の活用面・留意点

  • 本技術は、堆積型堆肥化施設の排気などを処理する生物脱臭装置で、流入窒素の容積負荷を数10g N/m3/日以下に抑え、循環水中の硝酸性窒素等の濃度が上昇しない範囲で給排水を行う生物脱臭装置での利用を想定している。
  • 本成果は、溶解反応が律速とならないチオ硫酸ナトリウムを用いた結果であるが、実用化に向けては、硝酸還元反応に供給できる1電子あたりのコストがより安価な固体硫黄を用いた技術的な検討が必要である。

具体的データ

図1 生物脱臭装置内でのアンモニア除去にチオ硫酸ナトリウムと硫黄脱窒集積汚泥を接種,図2 脱臭試験の概要,図3 脱臭試験1の循環水中の無機態窒素、チオ硫酸イオン、硫酸イオン、pHの経時変化,図4 脱臭試験2の循環水中の無機態窒素量の推移

その他

  • 予算区分:交付金、委託プロ(悪臭プロ)、戦略プロ(総合的悪臭対策)
  • 研究期間:2015~2018年度
  • 研究担当者:安田知子、福本泰之、和木美代子、松本敏美、上西博英
  • 発表論文等:
    • 安田、福本、和木「脱臭及び窒素除去方法」特開2018-130705(2018年8月23日)
    • Yasuda T. et al. (2020) Anim. Sci. J. 91:e13313doi:10.1111/asj.13313