食品副産物を有効活用できる機能性乳酸菌

要約

消化管環境改善や血圧調節に関わる機能を有する乳酸菌を用いて、食品副産物(シークヮーサー果皮、タマネギ皮)を効率的に発酵できる。これらは新規な機能性素材として有望である。

  • キーワード:食品副産物、シークヮーサー、タマネギ、機能性乳酸菌、発酵
  • 担当:畜産研究部門・畜産物研究領域・畜産物機能ユニット
  • 代表連絡先:電話 029-838-8011
  • 分類:研究成果情報

背景・ねらい

フードロスを含む食品廃棄物の処理には多大なコストがかかり、持続可能な社会を確立する上で大きな問題となっている。日本国内には機能性成分が多く含まれるにもかかわらず、廃棄されている食品副産物が多く、これらの資源を活用する技術の開発が求められている。例えば、シークヮーサー果皮は抗炎症能などを有するノビレチンを多く含んでおり、ブタの飼料などに使用されている例がある。また、タマネギの皮は抗酸化能を有するケルセチンを多く含んでおり、タマネギ皮茶などとして販売されている。一方、乳酸菌は農畜産物の発酵に用いられるだけでなく、一部の菌株には、適量摂取により宿主の健康維持に寄与する機能性を有するものがあることが知られている。
そこで、本研究では、食品加工の際に産出される食品副産物として、上述のシークヮーサー果皮およびタマネギ皮の利用性を向上させるため、機能性を有する乳酸菌を用いてこれらを発酵しうる条件を明らかにする。

成果の内容・特徴

  • 乾燥シークヮーサー果皮に水を1:5(重量比)の割合で添加し、滅菌後、Lactobacillus属の乳酸菌を接種し、30°Cで5日間培養すると、生菌数が接種時の菌数(107)の10倍以上に増加する(表)。これらの乳酸菌はシークヮーサー果皮の発酵が可能である。
  • シークヮーサー果皮を発酵しうるL. plantarum E58、Lactobacillus paraplantarum E07は世界的に使われているプロバイオティック乳酸菌であるLactobacillus rhamnosus GGよりもブタ胃ムチンへ付着性が高い(表)。
  • 乾燥タマネギ皮に水を1:5(重量比)の割合で添加し、滅菌後、L. plantarumの菌株を接種し、25~30°Cで3日間培養すると、生菌数が接種時の菌数(107)の10倍以上に増加する(図1)これらの乳酸菌はタマネギ皮の発酵が可能である。
  • タマネギ皮を発酵可能なL. plantarum E31はアンジオテンシン変換酵素(ACE)阻害活性を有しており、E31株を用いて発酵させたタマネギ皮のACE阻害活性は未発酵のものよりも1.2倍高い(図2)。
  • 乳酸菌による発酵過程で、シークヮーサー果皮中のノビレチン 、タマネギ皮中のケルセチンは分解されないため、含有量を維持できる。

成果の活用面・留意点

  • ブタ胃ムチンへの付着作用が高い乳酸菌は、少量の摂取でも腸内に定着する可能性があり、病原菌の消化管上皮への付着を競合的に阻害する能力が高いと期待される。E07株、E58株で発酵させたシークヮーサー果皮はノビレチンの機能と前述の乳酸菌の機能の両方を有する素材であり、家畜飼料などへの応用が期待できる。
  • ACE阻害活性は血圧上昇の抑制に関わる機能であり、ケルセチンにACE阻害活性があることから、同活性を持つE31株を用いて発酵させたタマネギ皮は、ケルセチンの機能と前述の乳酸菌の機能の両方を有する素材であり、発酵タマネギ皮茶などの食品への応用が期待できる。
  • E07株、E31株、E58株はいずれも食品から分離された乳酸菌であるが、発酵物の安全性について検討が望ましい。
  • 発酵物の有効摂取量については生体レベルでの検討が必要である。

具体的データ

表 供試乳酸菌の発酵シークヮーサー果皮における生菌数とブタ胃ムチンへの付着性,図1 乳酸菌(L.plantarum E19,E31,J11,J41,361) の発酵タマネギ皮における生菌数,図2 タマネギ皮未発酵物とE31株による発酵物のACE阻害活性の比較

その他

  • 予算区分:交付金
  • 研究期間:2014~2019年度
  • 研究担当者:
    木元広実、守谷直子、大森英之、関山恭代、野方洋一、渡具知豊(有限会社渡具知)、大橋慶丈(東亜化成株式会社)、雨宮将宏(ゼンショーホールディングス)
  • 発表論文等:
    • 木元ら(2018)「発酵物の製造方法及び発酵物」特開2019-187251(2019年10月31日)
    • Kimoto-Nira H. et al. (2019) Int. J. Food Sci.Technol. 54:688-695.
    • 木元ら(2017)「乳酸菌、乳酸菌発酵食品及び血圧調整剤」特開2019-103460 (2019年6月27日)
    • Kimoto-Nira H. et al. (2019) J. Food Meas. Charact. 14:142-149