乳酸菌H61株検出プライマーセット

要約

乳酸菌H61株のゲノム配列から検出したH61株に特異的な領域を用いて設計した検出用プライマーセットを用いると、H61株に特異的にPCRバンドが増幅でき、H61株であることを特定できる。

  • キーワード:菌株特異的PCRプライマー、乳酸菌H61株、Lactococcus lactis subsp. cremoris
  • 担当:畜産研究部門・畜産物研究領域・畜産物機能ユニット
  • 代表連絡先:電話 029-838-8011
  • 分類:研究成果情報

背景・ねらい

乳酸菌Lactococcus lactis subsp. cremoris H61株(NITE-P92)(以下H61株)は、老化モデルマウスを用いた試験から、骨密度の減少や潰瘍発生などに対する抑制効果を有する。またヒトでも、同株の加熱処理菌体を摂取することにより50~60歳代の肌の保湿向上効果を示すなど、H61株は様々な健康効果を有する機能性乳酸菌である。H61株が発揮する効果は、本菌株に特異的なものであることから、製品中のH61株の有無を判別できることが求められている。そこで本研究ではH61株の完全長ゲノム配列と同種の菌株のゲノム配列との比較により、H61株に特異的なDNA領域を検出し、H61株特異的なPCR用のプライマーを設計する。

成果の内容・特徴

  • H61株の完全長ゲノム配列とゲノム配列既知の同種の4菌株についてタンパク質をコードする領域において相同性の認められない領域を検出する。さらにこの領域をBLAST検索することにより全細菌種に対して相同性の認められない領域を検索し、プライマー配列を設計する。
  • 設計したプライマーを用いてH61株と同一亜種のcremoris 12株(標準株ATCC 19257を含む)、および同種亜種lactis 8株のゲノムDNAを鋳型に用いてPCRを行い、H61株においては相当する鎖長のPCR産物が得られるが、他の菌株由来のDNAを鋳型にした場合にはPCR産物が得られないようなプライマーセットを選抜する。
  • 選抜したプライマーセットを用いてPCRを行った結果、H61株以外では増幅が見られない(図1)ことから、本プライマーセットは乳酸菌H61株を特異的に検出することができる。
  • H61株をリン酸緩衝生理食塩水(PBS)で洗浄し、PBSに再懸濁した溶液をオートクレーブ(121°C 、15分間)、または煮沸(100°C 、30分間)処理を行なったのちにDNA調製を行い、PCRの鋳型として用いた場合でも生菌から得られたDNAと同様にPCR産物は増幅されることから、加熱死菌であっても検出が可能である(図2)。

成果の活用面・留意点

  • H61株を用いた製品については、製品ごとに鋳型となるDNA画分の精製方法等を検討する必要がある。
  • 定量性を必要とする場合においては、別途リアルタイムPCRにおいて菌数測定のためのスタンダードを設定する必要がある。

具体的データ

図1 当該プライマーを用いたPCR産物のアガロースゲル電気泳動,図2 熱処理したH61株から調製したDNAを鋳型に用いたPCR産物のアガロースゲル電気泳動

その他

  • 予算区分:交付金
  • 研究期間:2016~2019年度
  • 研究担当者:
    鈴木チセ、木元広実、萩達朗、守谷直子、伊藤剛、中野和真(沖縄綜研)、佐藤万仁(沖縄綜研)、照屋邦子(沖縄綜研)、平野隆(沖縄綜研)
  • 発表論文等:鈴木ら、特願(2019年3月25日)