木材クラフトパルプ給与は放牧子牛の発育を向上させる

要約

親子放牧による黒毛和種子牛の育成において、木材由来クラフトパルプ(KP)を配合飼料給与量10%と置き換えることにより発育が向上する。子牛市場で取引される9か月齢時には全国平均体重と同水準になることが期待できる。KP給与により輸入穀物の消費量を10%削減し自給率向上に繋がる。

  • キーワード:放牧、黒毛和種牛、木材クラフトパルプ、VFA、反芻胃液pH
  • 担当:畜産研究部門・草地利用研究領域・山地放牧ユニット
  • 代表連絡先:電話 0287-37-7000
  • 分類:研究成果情報

背景・ねらい

繁殖農家の高齢化による離農が懸念され、肥育素牛となる黒毛和種子牛の価格が高騰し続けている。肉用子牛の増頭を図るために生産基盤を放牧に拡大するには、子牛の発育が課題となる。そこで本研究では、反芻胃発達と発育向上が期待されるKPを給与することによる、放牧子牛の発育改善効果および反芻胃液に及ぼす影響を明らかにする。

成果の内容・特徴

  • KPは木材チップからリグニンを概ね除去して製造されるため、可消化養分総量(TDN)が95%と高く、かつ消化速度がトウモロコシに比べ緩やかであるためアシドーシスを抑制する効果がある(把田ら(2016)特許第5994964)。子牛が繊維を消化できるようになる2か月齢時から配合飼料の10%TDNをKPに置き換えて給与し(給与区、去勢5頭、メス3頭)、置き換えをしない対照区(去勢5頭、メス3頭)と比較する。給与飼料は、放牧子牛で最も飼料効率が良かった1日1頭あたり2 kg(進藤ら(2015)日草誌61(別):54)を上限とする。ケンタッキーブルーグラス草地への放牧期間は1か月齢~7か月齢の間とし、その後は乾草を給与するパドック飼養で出荷適期である9か月齢まで飼養する。
  • 親子放牧期間中の2~7か月齢の間、KPを給与した給与区は対照区に比べ日増体量(DG)が有意に上昇した(表1、対照区0.93±0.03kg/日、給与区1.02±0.03kg/日)。給与開始から9か月齢までのDGは差が無いが、9か月齢時の生体重は給与区で高い傾向を示す(対照区259.2±7.7kg、給与区284.4±11.8kg)。
  • KP給与はアシドーシスを抑制する効果がある。反芻胃留置型の無線伝送式pHセンサ(山形東亜DKK株式会社製・研究開発品)で反芻胃液pHを連続測定すると、給与区の子牛ではpHが5.8以下になる時間数が減少する(図1)ことから、KP給与は黒毛和種放牧子牛のSARA発生リスクの低減に対して有効である。
  • 反芻胃液の揮発性脂肪酸(VFA)濃度は両区とも差が無い(表2)。反芻胃液中のエンドトキシンの1つであるリポ多糖(LPS)活性値は給与区において低下する(図2)。KPは、放牧を取り入れた黒毛和種子牛の補助飼料に用いることで、SARAおよび第一胃内LPS産生を抑制する。

成果の活用面・留意点

  • 1日の配合飼料給与量を1頭あたり2.0kgとして0.2 kgをKPに置き換えると、2~9か月齢までで1頭あたり42kgの配合飼料を削減でき、輸入穀物の使用を抑えることで飼料の自給率向上に繋がる。
  • 2018年の市場での子牛取引平均月齢が9か月齢、平均体重が285kgであることから(農畜産業振興機構、2018)、KPを給与することで放牧地でも市場評価に適う子牛を生産できる。
  • 本センサでの低pHの基準は、繊維分解菌の活動が抑制されるpH5.8以下である。疾病に繋がるとされる亜急性アシドーシス(SARA)判定基準は低pHが3時間/日以下である。
  • KPの置き換え割合によって、発育向上レベルや反芻胃内発酵への影響は異なるが、KPを飽食させると反芻胃内で膨満することと、KP価格のコスト面から10%が妥当という報告がある。

具体的データ

表1.KP給与子牛の発育,表2. KP給与子牛の反芻胃液VFA構成,図1.KP給与子牛の反芻胃液における1日当たりの低pH時間数,図2.KP給与子牛の反芻胃液中LPS活性

その他

  • 予算区分:交付金、その他外部資金(27 補正「先導プロ」、28補正「AIプロ」)
  • 研究期間:2016~2020年度
  • 研究担当者:木戸恭子、手島茂樹、櫛引史郎、上野豊(信州大学)
  • 発表論文等:
    • Kido K. et al. (2019) Anim. Sci. J., 90(12):1537-1543
    • 木戸(2017)日草誌、63(4):220-222
    • 木戸ら(2019)日草誌、65(4):267-269
    • 簑原(日本製紙)ら「仔牛の増体促進法」特開2018-121558(2018年8月9日)