沿岸域の地下水位時系列観測データの分析による帯水層の透水係数推定手法

要約

海洋潮汐の伝播により変動する地下水位の観測により、帯水層の透水係数を推定する手法である。海岸からの距離が異なる2地点での約40日間の水位観測データから、表計算ソフト上の式入力によって2地点間の平均的な透水係数を推定することができる。

  • キーワード: 地下水位、デジタルフィルタ、調和解析、潮位伝播、水頭拡散率
  • 担当: 農村工学研究部門・地域資源工学研究領域・地下水資源ユニット
  • 代表連絡先: 電話 029-838-7509
  • 分類: 普及成果情報

背景・ねらい

石灰岩島嶼や沿岸域の貴重な水資源であり気候変動に対する脆弱性が懸念されている地下水を適切に開発または保全するためには、帯水層の水理的性質を把握することが重要である。帯水層の水理的性質の代表的指標としては透水係数や貯留係数があり、その推定には揚水試験が広く用いられているが、揚水試験では揚水地点の周辺数百mの比較的狭い範囲の帯水層の情報しか得られない。このため、そのような地域で地下水位の潮汐応答を利用して、広範囲の帯水層の平均的な透水係数を推定できる手法を提示する。

成果の内容・特徴

  • 潮位の変動は海洋に接する帯水層中を内陸に向かって減衰しながら伝播する。潮位の伝播によって地下水位が周期的に変動する沿岸地域において、海岸にごく近い地点および海岸から離れた地点でそれぞれ観測孔等に設置した自動記録型水位計により地下水位を1時間間隔で40日間同時に観測する(図1、図2-[1])。
  • 得られた各地点の地下水位の時系列観測データに対し、デジタルフィルタと呼ばれる数列の掛け算による方法を用いて、降雨等の影響による潮汐より長い周期をもつ変動成分を取り除く(図2-[2])。デジタルフィルタは、2日間以上の長周期の成分を除去し日周期以下の潮汐成分を完全に保つよう設計された241個の数値からなる数列を用いる。その適用は表計算ソフト上で掛け算と足し算を組み合わせて行うことで実現できる。なおデジタルフィルタ適用後の時系列データは、元データに比べデジタルフィルタの長さである10日間分だけ短くなる。
  • 長周期成分が取り除かれた各地点の観測データの29.5日間分の長さ(708データ)に対し、フーリエ級数展開の式を応用した計算(調和解析)により、一般に振幅が最も大きな12.421時間周期の潮汐成分を抽出して振幅と位相を計算し、2地点間の振幅比と時間遅れを導く(図2-[3])。この調和解析は表計算ソフトで三角関数等の組み込み関数を入力して実現できる。
  • 導かれた2地点間の振幅比と時間遅れをそれぞれ、帯水層内での地下水位の周期的変動の伝播を表す計算式に代入して「透水係数÷貯留係数×帯水層厚さ」に等しい値をもつ帯水層定数(水頭拡散率)を計算し、別途地質ボーリングや室内試験から得られる帯水層厚さや貯留係数の情報を組み合わせることで、透水係数が算出される(図2-[4])。

普及のための参考情報

  • 普及対象: 沿岸域・島嶼域において地下水の開発・保全に携わる行政担当者、民間事業者、研究者。
  • 普及予定地域: 開発・保全対象の地下水が存在する沿岸域および島嶼。国が実施中の沖縄県の島嶼(面積約2,000ha)における農業用地下水開発調査において地下水解析モデルの構築に活用されている。
  • その他: 本手法は潮位変動が伝わる帯水層の範囲に海岸から距離が異なる2箇所の地下水観測孔がある場合に適用可能である。本手法実行のための計算シートやその他の適用条件・手順などを記載したマニュアルが提供できる。

具体的データ

図1 観測地点配置模式平面図・模式断面図; 図2 水位観測・デジタルフィルタ・調和解析・水位変動伝播式の利用による帯水層の透水係数の推定の流れ

その他

  • 予算区分: 交付金、委託プロ(温暖化適応・異常気象対応)、競争的資金(科研費)
  • 研究期間: 2013~2016年度
  • 研究担当者: 白旗克志、吉本周平、土原健雄、石田聡
  • 発表論文等:
    1) 白旗ら(2014)農村工学研究所技報、215:141-154
    2) Shirahata K. et al. (2016) JARQ. 50(3):241-252
    3) Shirahata K. et al. (2017) Paddy Water Environ. 15(1):19-36