無機系表面被覆工の簡易な中性化深さ測定手法「コアビット法」

要約

無機系表面被覆工の中性化深さ測定手法である。コアビットによって被覆材表面を切削し、切削痕へのフェノールフタレイン溶液噴霧による呈色反応を利用し、中性化深さを0.3mm未満の精度で、現場で簡易に測定することができる。

  • キーワード:無機系表面被覆工、中性化深さ、現場簡易測定法、コアビット
  • 担当:農村工学研究部門・施設工学研究領域・施設保全ユニット
  • 代表連絡先:電話 029-838-7569
  • 分類:研究成果情報

背景・ねらい

無機系表面被覆工法は農業用コンクリート開水路補修工法の60%以上を占める主要工法である。「農業水利施設の補修・補強工事に関するマニュアル【開水路補修編】(案)」には、その要求性能項目の1つに中性化抑止性が挙げられており、品質規格値(案)として供用20年での中性化深さが5mm以下であることとされている。一方で、現場の被覆材に生じている中性化深さは数mmと非常に小さいため、コンクリート構造物に対する現場簡易測定法であるドリル法では、現場の被覆材の中性化深さを特定することが困難である。そのため、現地でコアを採取して実験室に持ち帰り、割裂してフェノールフタレイン溶液の呈色反応を確認する(コア法)必要があり、手間やコストを要する。そこで、現場で簡易に被覆材の中性化深さを測定できる手法を開発する。

成果の内容・特徴

  • 開発したコアビット法の測定手順を図1に示す。まず、小口径コア採取等に用いるコアビット(φ25mmコア採取用)により、被覆材の表面を斜めに切削することで、表面から一定の勾配を持つ三日月状の溝を設ける。次に、切削粉を除去し、フェノールフタレイン溶液を噴霧し、呈色・非呈色領域の境界に鉛筆等でマークをつける(図2a)。マーク位置の被覆材表面からの深さをデプスゲージ(本研究では測定子先端径φ1mm、精度±0.03mmを使用)によって測定し、中性化深さとする。
  • 作業時間は1箇所あたり3分程度であり、構造物への損傷も小さい。切削した溝はポリマーセメントモルタルで容易に補修できる。したがって、多点、広範囲にて調査することが可能である。
  • 約8年間大気暴露状態にあった被覆材から採取したコア(φ25mm)の割裂面を図2bに示す。比較的狭い範囲でも被覆材内の中性化の進行自体にばらつきがある。したがって、コアビット法では溝の深さによって、呈色・非呈色境界を判別できず測定値が得られない場合、中性化深さを過小評価する場合がある(図2a)。
  • 被覆材表面が平坦でないこと、マーク位置の誤差、溝の底部の形状などによるデプスゲージでの測定誤差が生じるが、実際の測定ではこれらの誤差は小さい。溝の傾斜によって生じる誤差が主であり、測定誤差はおおむね0.3mm未満である(図3)。
  • 実水路に施工された供用4~9年の5種類の被覆材を対象に、コアビット法とコア法による中性化深さを比較した結果、被覆材の種類によって相違があるものもあるが、両者でほぼ同等の結果が得られる(図4)。

成果の活用面・留意点

  • 測定面は十分に乾燥している必要がある。被覆材が高い含水状態にあると、フェノールフタレイン溶液噴霧後に呈色がにじみ、呈色・非呈色境界の判別が困難な場合がある。
  • 被覆材の種類などの条件によっては、フェノールフタレイン溶液噴霧後に呈色が濃くなったり、呈色範囲が拡大したりすることがある。この場合、呈色・非呈色領域の判別はフェノールフタレイン溶液噴霧後おおむね5秒以内に行う必要がある。
  • コアビット法では適切な溝の深さが必要である。数箇所で溝の深さを変えた予備試験を実施し、溝の深さを決めておく必要がある。

具体的データ

図1 コアビット法の手段?図2 中性化のばらつきと溝深さの関係による測定の良否?図3 溝の傾斜による測定誤差(図2aのA-B断面)?図4 コアビット法とコア法による中性化深さの比較

その他

  • 予算区分:交付金、委託プロ(生産システム)
  • 研究期間:2012~2016年度
  • 研究担当者:川邉翔平、中嶋勇、森充広、川上昭彦、西原正彦、渡嘉敷勝
  • 発表論文等:
    1)西原ら(2014)農業農村工学会大会講演要旨集:672-673
    2)川邉ら(2016)農業農村工学会論文集、84(3):I_353-I_361
    3)森ら(2016)農業農村工学会論文集、84(3):I_363-I_372