劣化した農業用パイプラインの改修工法の経済的な設計手法

要約

鉄筋コンクリート管(既設管)の現場硬化管(既設管内面に密着するように更生材を樹脂で硬化させる管)による改修では、既設管の存在による現場硬化管の土圧分布の変化を考慮することで、経済的な設計が可能となる。

  • キーワード:現場硬化管、たわみ、ひずみ、既設管、土圧
  • 担当:農村工学研究部門・施設工学研究領域・土構造物ユニット
  • 代表連絡先:電話 029-838-7569
  • 分類:研究成果情報

背景・ねらい

現場硬化管(図1)は、樹脂を含浸させた更生材(図1(a))を既設管内に設置し、熱や光によって硬化させる管路で、近年、老朽化した農業用パイプラインの改修に適用されている。既設管内に新しい管を設置するため、既設管の撤去が不要であり、地盤の開削が困難な場所でも適用できる。既設管を有効に利用することができ、施工期間及び工費を低減することも可能である。
しかしながら、地中における現場硬化管の土圧分布は未解明であるため、現在の現場硬化管の改修は、既設管が受け持つ荷重を考慮せず、既設管が無いものとして設計されている。このため、実際の状況に即した適切な設計手法が求められている。そこで、ひび割れまたは破断が発生した既設管に設置する現場硬化管を再現した模型実験を実施し、現場硬化管に作用する土圧分布を解明することにより、既設管の存在を考慮した経済的な設計手法を開発する。

成果の内容・特徴

  • 図2の実験は、A「既設管なし」:既設管がないものとして現場硬化管のみを地盤に埋設したケース、B「ひび割れ」:既設管にひび割れが発生したケース(鉄筋が断線して既設管が破断する前の状態)、C「破断」:既設管の4箇所(管頂・管底・管側)で鉄筋を切断したケース(既設管にひび割れが発生した後に、鉄筋が断線し地中で既設管が分割する状態)を再現し、地表面から荷重を与えて現場硬化管の変形を測定したものである。
  • 図2(c)より、ひび割れが発生した既設管では、地表面から大きな荷重(120kPa)を与えても、現場硬化管には変形が生じるような大きな土圧は発生しない。
  • 破断したケースでは、地表面荷重が増加すると既設管は破断して完全に分割し、現場硬化管に土圧が作用するが、既設管なしのケースよりも変形量は大幅に小さい(図2(b)及び(c))。地表面荷重120kPa時の現場硬化管の最大のひずみ(550μ)は既設管がない場合(355μ)の65%以下であることから、現場硬化管に作用する土圧は、既設管が完全に破断した状態でも既設管がない場合よりも減少することが分かる。
  • 既設管の存在を考慮しない場合、現場硬化管は図3(a)に示す土圧が作用するものとして設計される。模型実験の結果から、実際には、既設管と現場硬化管の接触した部分からのみ土圧が伝達し、現場硬化管に作用する鉛直土圧は、図3(b)に示すように管上部と管下部で対称となる分布が想定される。
  • 図3(b)の土圧分布から、パイプラインの設計に必要な、管底に発生する最大曲げモーメントと水平たわみ量(水平方向の変形量)を算出できる。図3の算定式により、経済的な現場硬化管の設計が可能となる。

成果の活用面・留意点

  • 図3において設計に用いるW'θ'はパイプ周辺の地盤及び既設管の条件によって変わるため、「その他」の発表論文を参考に現場調査の結果から適切に設定する必要がある。例えば、埋設深2m、口径1000mmの管でW'=W/2、θ'=θ=60°とした場合、30%程度のコスト縮減となる。

具体的データ

図1 現場硬化管?図2 模型実験?図3 現場硬化管に作用する鉛直土圧分布、最大モーメント及び水平たわみ量

その他

  • 予算区分:交付金、競争的資金(農食事業)
  • 研究期間:2012~2016年度
  • 研究担当者:有吉充、毛利栄征
  • 発表論文等:有吉ら(2016)農業農村工学会論文集、84(3):I_209-I_221