モニタリング施設を活用した圧力変動緩和装置の設置マニュアル

要約

畑地灌漑用の小口径高圧管路では破損事故が多発しており、要因分析と対策が求められている。このマニュアルでは、事前調査、モニタリング施設設置、要因分析から圧力緩和装置設置による対策までのプロセスを現場技術者に分かり易く解説するものである。

  • キーワード:小口径、パイプライン、水撃圧、疲労破壊、長寿命化
  • 担当:農村工学研究部門・水利工学研究領域・施設水理ユニット
  • 代表連絡先:電話029-838-7677
  • 分類:普及成果情報

背景・ねらい

畑地灌漑用の小口径高圧管路に使用される樹脂管の破損事故が西日本の畑地灌漑地区において多数発生している。破損事故の発生要因は、水理学的、土質力学的、地震動、材質と周辺環境の関係、および施工不良など様々な要因がある。樹脂管については、き裂が生じる疲労破壊による破損形態が最も多いため、水理学的または土質力学的要因が大きいと考えられる。本マニュアルでは、主要な破損事故の発生要因である水理学的要因の対策について整理し、給水栓の開閉による水撃圧や減圧弁の応答による圧力上昇への対策方法の一つとして圧力変動緩和装置を提案する。対策の効果を適切に発現させるためには、モニタリングによる要因分析から対策までのプロセスの理解促進が求められている。

成果の内容・特徴

  • 圧力変動緩和装置の設置に至る流れ(図1)では、はじめに、過去の破損事故の履歴から破損形態や土質力学的要因の可能性を判別した後、モニタリング施設の設置を推奨する。その後、モニタリングした結果から、管内の圧力変動のパターンを分類し、給水栓の開閉による水撃圧や減圧弁の応答による圧力上昇であると判別できる場合には、それら施設のメンテナンス・更新費よりも安価であれば、圧力変動緩和装置を設置する。
  • 過去の破損事故時の復旧工事資料を参照すれば、破損事故の被害状況や位置分布などから破損形態を判別できる。樹脂管の疲労破壊の主要な要因である水理学的要因は、水利施設の構成や水管理の方法によって様々な水理現象が生じ、管内の圧力変動の波形に特徴的なパターンがある。これらの圧力変動パターンから水理学的要因を分類することができる。
  • モニタリング施設は、破損事故の発生要因や漏水箇所の位置を調査することができる。本施設の構成は、センサー(弁体の開度、水圧、土圧、ひずみ)、データロガー、電源、漏水探査ロボットの投入・回収口、制水弁から成る(図2左)。本施設の寸法は、マンホール蓋の直径:900mm、内部空間の直径:1,500mである。設置位置は、既設管路では漏水事故が多発している区間を挟む上下に1か所ずつ、または、新設管路では幹線水路から分水した支線水路において分水した直後から約400mの区間を挟む1か所ずつに設置するのが適当である。
  • 圧力変動緩和装置は、空気弁とアキュムレーターを備えており、弁体中央に穴の空いた逆止弁が付属している(図2右)。アキュムレーターの容積と封入圧力は、静水圧、水撃圧、損失水頭、管内平均流速および管路の口径等によるが、モニタリング施設の内部寸法を考慮して選定する必要がある。封入圧力は、設置後5年程度は変化がないと予想されるが、封入圧力の点検作業を年1回程度行うことが適切である。

普及のための参考情報

  • 普及対象:国営・県営の農業土木技術者、農業土木コンサルタント、土地改良区職員
  • 普及予定地域・普及予定面積・普及台数等:畑地灌漑用の小口径高圧管路として樹脂管が埋設されている地域。
  • その他:給水栓の開閉による水撃圧が破損事故の要因であることが他の調査手法によって明らかである場合、モニタリング施設の設置は必ずしも必要ではない。その場合、圧力変動緩和装置は、既設の建屋や新設のマンホール内に設置することになる。

具体的データ

図1 圧力変動緩和装置の設置に至る流れ;図2 モニタリング施設の設置スペースを活用した圧力変動緩和装置の設置例


その他

  • 予算区分:交付金、その他外部資金(SIP)
  • 研究期間:2014~2017年度
  • 研究担当者:田中良和、森充広、安瀬地一作、有吉充
  • 発表論文等:
  • 1)田中(2017)12th Pipeline Technology Conference:1-9
    2)有吉ら(2018)Transportation Infrastructure Geotechnology:10.1007/s40515-018-0048-z
    3)田中ら「配管の圧力変動緩和機構」特願2016-080362(2016年4月14日)
    4)農研機構(2018)「圧力変動緩和装置の設置マニュアル