軽量組立型枠を用いた集水井のコンクリート内巻補強工法

要約

老朽化した集水井の内面をコンクリート内巻にて補強する工法である。鋼製リングと塩ビ製の表面部材を使用することにより組立型枠を軽量化し、内部構造が複雑な集水井でも施工が容易で地盤変形に対して高い追従性を示す内巻構造を形成する。

  • キーワード:地すべり防止施設、集水井、機能保全、補修・補強、内巻補強工法
  • 担当:農村工学研究部門・施設工学研究領域・施設保全ユニット
  • 代表連絡先:電話029-838-7677
  • 分類:普及成果情報

背景・ねらい

農林水産省農村振興局所管の農地等の地すべり防止区域は全国に約2,000箇所あり、その多くには地下水排除工の集水井が設置されている。集水井は地すべり発生の誘引となるすべり面の間隙水圧の抑制を目的に設置されたものであるが、集水井の中には設置から50年以上経過したものもあり、損傷・機能低下が認められるものも多い。農村振興局では施設管理者の支援を目的とし平成29年3月に「地すべり防止施設の機能保全の手引き」を公表したが、集水井の補修・補強工法についての記載は少ない。本研究では、集水井の新たな補強工法である内巻補強工法を開発するとともに、標準化のための設計・施工マニュアル(案)を作成する。

成果の内容・特徴

  • 内巻補強工法の概要を図1に示す。老朽化した集水井の内面に円形の鋼製リングを組み立て、鋼製リングに塩ビ製の表面部材をはめ込み組立型枠を設置する。組立型枠と既設集水井の隙間に高流動モルタルを流し込みコンクリート内巻を形成する。鋼製リングはコンクリート中に埋設されるため腐食が起きにくく剛性および耐久性も高い。
  • 施工工程を図2に示す。最初に集水井内部の洗浄を行う。次に、集水井の内側に鋼製リングを組み立てる。鋼製リングは5kg未満と軽量であり人力で簡単に接合できる。部材が軽く接合が容易なことから施工が簡単である。鋼製リングには特殊な孔が空いており、ハンマーを用いて塩ビ製の表面部材をはめ込むだけで水密性の高い組立型枠ができる。最後に高流動モルタルを集水井のライナー壁と組立型枠の隙間に充填すればコンクリート内巻が完成する。作業員3人で1日1.5mの打設高で内巻の施工が可能である。
  • 新潟県内の既設ライナープレート製集水井を対象に内巻補強工法の試験施工を実施した。施工1年後の状況を図3に示す。内巻には損傷・変形は認められず、内部状態は良好である。図3に示す点検梯子には、耐腐食性の高いFRPを使用している。ボーリングマシンを集水井の中に入れ易いように、点検梯子の踊り場部分は簡単に取り外すことができる。
  • 鋼製リングと高流動モルタルの複合構造の変形及び破壊状況を確認するために、縮尺約1/3の集水井模型を作製し、側方から土圧に相当する荷重を作用させた。その結果、縮尺模型は鉄筋コンクリートと同様にひび割れが分散しながら変形し、直径方向のたわみが約8%に達しても破壊せず高い変形性能を示すことが確認された。地すべり地区の地盤の変形に対しても追従性が高い構造である。

普及のための参考情報

  • 普及対象:集水井を管理する国、県、地方自治体
  • 普及予定地域・普及予定面積・普及台数等:全国2,000箇所の地すべり防止区域の主にライナープレート製集水井(8,700基と推計)を対象とする。
  • 標準化のための設計・施工マニュアルは農研機構ホームページからダウンロードできる
    (http://www.naro.affrc.go.jp/publicity_report/pub2016_or_later/laboratory/nire)。

具体的データ

図1 内巻補強工法の概要;図2 施工工程;図3 施工完了時;図4 縮尺1/3集水井模型載荷試験


その他

  • 予算区分:交付金、その他外部資金(官民連携新技術研究開発事業)
  • 研究期間:2015~2017年度
  • 研究担当者:中嶋勇、森充広、川上昭彦、川邉翔平、中里裕臣、紺野道昭、岡村昭彦(芦森エンジリアニング株式会社)、五十嵐正之(共和コンクリート工業株式会社)
  • 発表論文等:
  • 1)浅野ら(2017)水と土、182:68-73
    2)農研機構(2018)「集水井の設計・施工マニュアル」http://www.naro.affrc.go.jp/publicity_report/pub2016_or_later/laboratory/nire