将来の豪雨強大化に対応した水利施設計画・管理のための水稲被害リスク評価法

要約

気候変動による豪雨の強大化が低平農地域の水稲生産に与えるリスクを評価する手法である。複数の気候シナリオの特徴を反映させて作成した多数の豪雨群を用いるため被害量や金額を統計的に評価でき、新たな排水計画や流域水管理方策の策定に有効である。

  • キーワード:豪雨特性、気候変動リスク、水稲減収尺度、排水計画、流域一体管理
  • 担当:農村工学研究部門・地域資源工学研究領域・水文水資源ユニット
  • 代表連絡先:電話029-838-7677
  • 分類:普及成果情報

背景・ねらい

気候変動の影響により将来は豪雨が頻繁化し、降雨強度も強まる可能性が高いとされる。低平水田域では、内水氾濫による被害増大が懸念されるため、対応策として将来の豪雨の影響を見越した新たな排水計画手法や、流域一体での水管理手法の策定が望まれる。そこでは、農地湛水による作物減収等のリスクを評価する必要がある。しかし、評価の際に使用する気候予測モデル(GCM)の出力(気候シナリオ)は、GCMの種類や計算手法等の諸条件により結果が異なるため、従来のように単一の雨量、波形を持つ将来の計画基準降雨を定められない。そこで本研究では、複数の気候シナリオから得た豪雨の特性を考慮して、将来の確率雨量の出現分布を確率的に表現する。さらに、その分布を入力値に用いて得た水稲被害量の確率分布から、リスクを統計的に評価する手法を提案する。

成果の内容・特徴

  • 開発した手法は、(1)複数GCMの特性を反映させた豪雨データの発生、(2)湛水解析に基づく水稲の冠水被害量の算定、(3)被害リスクの統計的評価からなる(図1)。
  • 収集した気候シナリオ毎に、豪雨の発生頻度、雨量強度に関する特性値を抽出する。それらの値の出現確率を考慮し、様々な特徴を持った豪雨群を多数発生させることで、確率雨量の分布を得る(図2は石川県加賀三湖地区で算定した10年確率3日雨量の例)。さらに、多様な時間集中度(前方~後方集中型の降雨波形)のパターンを設定できるため、雨量と降雨波形の両方の変化が被害に与える影響を評価できる。同手法を現在、近未来、21世紀末等の期間に適用すると、それぞれの期間で確率雨量の分布が得られる。
  • 水稲被害量は、水田域の湛水解析の結果である水稲冠水深やその継続期間、生育時期等の冠水条件に対応した水稲の減収尺度を使用して、定量的に算定する(図1(2))。
  • 雨量強度と時間集中度の組合せで水稲被害量は大きくばらつくため、確率雨量の分布(図2)をリスク評価に利用すると被害量の発生頻度分布が得られる(図3)。同手法を現在から将来にかけて適用すると、期間毎の平均的な被害量や想定される最大規模の被害量を比較できる。例えば分布の上位10%値でみると、21世紀末には被害リスクが現在の1.28倍になる。このリスクは、玄米単価を用いると容易に被害金額に換算できる。
  • 一連の手法は、気候変動を見越した将来のリスク変化を盛り込んだ新たな排水計画手法の発案に繋がる。また、全国の低平地における農地浸水マップの策定等にも役立つ。

普及のための参考情報

  • 普及対象:農地排水や防災等の計画基準の策定に係る行政部局、水利施設管理を担う土地改良区、民間コンサルタント
  • 普及予定地域・普及予定面積・普及台数等:排水の計画基準・技術書への反映1件、水田中心の全国の国営排水改良地区(30地区程度)を想定。
  • その他:豪雨の発生手法は、ため池防災や畑地の土壌流亡の予測に活用できる他、排水機場での事前排水のような施設管理・操作法の想定にも役立つ。都市域を含めた氾濫解析を行うことで、都市被害を軽減するための流域一体での水管理手法の検討に繋がる。

具体的データ

図1 気候変動を考慮した低平水田域の水稲被害リスクの評価手法;図2 10年確率雨量の強度分布の将来変化;図3 水稲被害リスクの評価結果


その他

  • 予算区分:交付金、委託プロ(温暖化適応・異常気象対応)
  • 研究期間:2013~2017年度
  • 研究担当者:皆川裕樹、池山和美、宮津進、吉田武郎、久保田富次郎、北川巌、増本隆夫
  • 発表論文等:
  • 1)皆川ら(2018)農業農村工学会論文集、307(86-2):I_163-I_173
    2)皆川ら(2018)農業農村工学会論文集、307(86-2):I_175-I_184
    3)皆川ら(2016)農業農村工学会論文集、303:I_271-I_279
    4)皆川ら(2014)農業農村工学会論文集、291:147-156