CSMT電磁探査法を利用する沿岸域の高能率深層地下水調査法

要約

津波災害時や災害に備えた沿岸域の広域的な深層地下水水源調査を短期間で実施可能とする調査手法である。本手法では、事前のノイズ調査による受信点の適用性評価と、複数の多チャンネル受信器を用いる同時多点受信による高い調査能率を特徴とする。

  • キーワード:CSMT電磁探査法、深層地下水、高能率、同時多点受信
  • 担当:農村工学研究部門・地域資源工学研究領域・地下水資源ユニット
  • 代表連絡先:電話029-838-7677
  • 分類:普及成果情報

背景・ねらい

津波・高潮災害等により沿岸農村地域の浅層地下水に塩水化が生じ、代替水源を深層地下水に求める場合、迅速に広域的に適用可能な地下水調査法が必要となる。そこで、送信電磁波に対する地盤の電磁応答から地下の比抵抗分布を求め、低比抵抗の塩水化地下水の分布や帯水層構造を推定する電磁探査法のうち、1カ所の送信源に対し数10km2の受信範囲が設定されるCSMT(人工送信源地磁気地電流)法に着目し、商用電源等のノイズ源が多い沿岸域での適用に当たり、事前のノイズ測定により適切な受信点を選定するとともに、複数の多チャンネル受信器を用いる同時多点受信により現地作業時間を短縮する高能率な深層地下水調査法を提案する。

成果の内容・特徴

  • CSMT電磁探査法では、受信範囲において、送信電磁波によって地盤に誘導される微弱な2次磁場を1対の磁場センサと電場センサで測定し、送受信信号の周波数を変化させ、高周波では浅部の、低周波では深部の比抵抗情報を得る。提案手法では、場所による変化が少ない磁場の1センサと、複数の電場センサを接続可能な受信器を複数用意し、同時多点受信により広域的な調査を短期間で行う(図1)。
  • 沿岸域では住宅、工場、送電線等のノイズ源が多く、受信適地選定が課題となる。事前調査として受信器のみを用いて受信候補点のノイズ評価を行い、相対的にノイズレベルの低い箇所を受信点として選定することにより、より効率的な調査計画を立てることができる(図2)。
  • 高比抵抗層が帯水層と推定される兵庫県南あわじ市における水源調査では、探査深度300m、受信時間1時間/カ所、受信器2式による4~6点同時受信の調査仕様で26受信点の調査を2日間で実施でき、従来法と比較して受信に必要な調査日数を半減できる(表1)。本手法によって得られる推定帯水層等厚線図(図3)において、帯水層厚が100m以上と推定された地点で掘削された試掘井(深さ113m、φ200mm仕上げ)では800L/minの揚水量が得られ、本手法の有効性が確認できる。

普及のための参考情報

  • 普及対象:沿岸域で地下水の利用・保全に携わる行政部局、民間事業者、研究者。
  • 普及予定地域・普及予定面積・普及台数等:津波湛水等による浅層地下水障害や補助水源として地下水開発が想定される沿岸域。国の津波対策地下水調査2地区、県の地下水水源調査1地区に活用されている。
  • その他:本手法は津波災害等への緊急対応のための深層地下水賦存状況の広域的な概査に適した手法である。図1のシステムでは最大30点/日の探査能率を確認しており、調査地点数が多いほど調査期間と調査コストの縮減を可能にする。本手法実施のための適用条件・手順などを網羅したマニュアルは、農研機構ホームページからダウンロードできる
    (http://www.naro.affrc.go.jp/publicity_report/pub2016_or_later/laboratory/nire/)。
  • 具体的データ

    表1 調査工程例;図1 提案手法の構成;図2 事前ノイズレベル調査による受信点評価;図3 現地適用による推定帯水層等厚線図


    その他

    • 予算区分:交付金
    • 研究期間:2016~2017年度
    • 研究担当者:中里裕臣、白旗克志、石田聡、土原健雄
    • 発表論文等:
    • 1)農研機構(2018)「CSMT電磁探査法を用いた沿岸域における効率的な深層地下水調査マニュアル」http://www.naro.affrc.go.jp/publicity_report/pub2016_or_later/laboratory/nire (2018年公開予定)
      2)中里ら(2017)地盤工学会誌、65(1):46-47