畑地基盤の水管理への土壌水分動態解析の活用

要約

日本の降雨変動の大きい気象条件のもとでの畑地用水計画の高度化やマルチ栽培などの栽培技術を反映した合理的な水管理のため、複雑な境界条件のもとで土壌水分動態解析を行い、計画諸元等を算定することが有効である。

  • キーワード:畑地灌漑、有効土層、上向き補給水量、マルチ栽培、土壌水分
  • 担当:農村工学研究部門・農地基盤工学研究領域・畑整備ユニット
  • 代表連絡先:電話029-838-7677
  • 分類:研究成果情報

背景・ねらい

半乾燥地と異なり、わが国では降雨変動の大きい気象条件の下で畑地農業が行われ、畑地基盤内の土壌水分変動も大きい。このため、わが国の畑地用水は、土壌水分動態を考慮して計画する必要がある。また、集約的な畑地営農ではマルチ栽培など多様な栽培管理が導入されており、適切な土壌水分管理を行っていくためには、栽培管理に起因する複雑な境界条件を反映した土壌水分動態の予測が重要である。そこで、畑地用水計画の高度化や畑地営農における合理的な水管理のため、土壌水分動態解析に基づく「有効土層の深さ」、「上向き補給水量」などの計画諸元の算定手法と、マルチ栽培下の土壌水分動態から降雨の有効化の実態を明らかにする。

成果の内容・特徴

  • 計画諸元のうち「上向き補給水量」(図1)の算定には、1次元の土壌水分動態解析を行う。地下水位が十分深い場合は1m以上の土層を解析対象とし、下層の土壌水分動態を考慮する。上部境界は降水量と蒸発量、下部境界は自由排水とし、調査等で与えられる根群域では作物根による吸水が生じるよう設定する。作物の栽培期間中の降水量と蒸発量を与えて、土壌水分動態解析を行う。計算結果から、生育ステージ毎に根群域の下端に相当する深さの水分フラックスを期間で積算・平均して、上向き補給水量(正味の上向き水分フラックスの平均)を算定する。
  • 土壌水分動態解析に基づく「有効土層(図1)の深さ」の算定手順を図2に示す。現地観測で得られた土壌水分データを再現できるよう土壌物理性パラメータを逆解析により求め、計画間断日数を期間として土壌水分動態解析を行う。計算結果から、期間における各深さの水分フラックスの積算値を求め、その値が0となる深さを特定し、この深さまでを有効土層とする。算定された有効土層の深さは、"有効土層内の土壌水分は、根群域より深部に一旦浸透しても、毛管上昇により上向き補給水となり作物により利用される"という従来の有効土層の定義と一致している。
  • マルチ栽培下の土壌水分移動を明らかにするために2次元の土壌水分動態解析を行う。畝中央から畝間中央までを解析対象とし、マルチ部分は不透水境界、畝間とマルチに開けた植栽孔には降水量と蒸発量を与える。その際、水収支の点から、不透水なマルチ部分の降水量を畝間と植栽孔に上乗せして土壌水分動態解析を行う。計算結果から、降雨時には畝間と植栽孔から土層内に浸透が起こり、畝間から浸透した降雨の大部分は深部へ浸透してしまうため、用水計画上の有効降雨は限定的である(図3、図4)。

成果の活用面・留意点

  • 土壌水分移動の可視化によりマルチ下に潅水資材の敷設の有効性が確認できるなど、現場の実態に合わせた灌水資材の敷設位置や灌水量、灌水頻度等の灌水スケジューリングを決定する際に有用な情報を提供できる。
  • 1次元の土壌水分動態解析にはhttps://www.pc-progress.com/en/default.aspxから無料で入手可能なHydrus-1Dが利用できる。2次元の土壌水分動態解析には有料のソフトウェアであるHYDRUS(2D/3D)が利用できる。
  • 土壌水分動態解析を行う際、土壌水分特性パラメータの逆解析が必要な場合がある。逆解析には土壌物理の専門的な知識が必要となる。

具体的データ

図1 畑地用水計画で用いる計画諸元;図2 土壌水分動態解析による有効土層深の決定手順;図3 37.5mmの降雨があったときの水分フラックス分布(降雨当日);図4 37.5mmの降雨があったときの水分フラックス分布(降雨後1日目)

その他

  • 予算区分:交付金
  • 研究期間:2014~2017年度
  • 研究担当者:宮本輝仁、岩田幸良、亀山幸司、成岡道男、濵田康治
  • 発表論文等:
  • 1)成岡ら(2015)農業農村工学会誌、83(7):565-570
    2)岩田ら(2016)農業農村工学会論文集、84(2):175-183
    3)宮本ら(2017)土壌の物理性、136:3-14
    4)成岡ら(2017)農業農村工学会誌、85(3):249-254