農地利用再編に向けた地域の取組みを促すためのワークショップの活用

要約

自治体等が地域の農地利用再編を推進する際、「地域づくり」の手法であるワークショップを活用した支援を行うことにより、対象地域内の農地の利害関係者が農地利用再編の必要性を共有し、農地利用再編に向けた地域の取組みを強く促すことができる。

  • キーワード:農地集積、地域づくり、自治体、集落営農、農地中間管理事業、実施手順
  • 担当:農村工学研究部門・農地基盤工学研究領域・農地利用ユニット
  • 代表連絡先:電話029-838-7677
  • 分類:研究成果情報

背景・ねらい

自治体等が地域の農地利用再編を推進する際、具体的・合理的な計画の策定は困難である。策定できたとしても、地域内の農地の利害関係者(農地所有者・耕作者)それぞれの意向は様々であるから、計画への合意を得ることは容易ではない。農地利用再編を実現するためには、地域内の利害関係者側が、まずその必要性について共有し、その実現に必要な地域の取組みを企画・実践する過程を踏むことが重要である。
そこで、ある国営農地開発事業地区における上記過程の実現に有効であった「地域づくり」の手法であるワークショップ(以下、WS)を、農地利用再編を推進する地区に活用する際の具体的な実施手順を提示する。

成果の内容・特徴

  • 地域内の農地の利害関係者は、各々の事情に基づく様々な個別の農地利用意向を持っている。WSの活用は、地域の農地利用への問題意識を喚起・共有し、再編の必要性を地域目標として共有する過程を経て、農地利用再編に向けた地域の取組みを促す(図1)。
  • WSの対象地域は、農地利用再編に関する問題意識を共有可能な、一定規模の農地を有する範域(旧村、集落(複数も可)、ほ場整備工区等)を選定する。認定農業者・集落営農等、農地利用再編後の具体的な担い手を想定できる地域がより望ましい。
  • WSでは、対象地域の農地利用を見える化した航空写真、荒廃農地マップ等の図面を準備・提示する(図2)。それにより、地域の農地利用に関する話し合いが促される。
  • WSのプログラムは、前半で地域の課題、後半で将来構想を話し合うオーソドックスな内容とする。誰でも参加しやすい内容で案内することで、可能な限り多様な属性(農地所有者・耕作者、性別、年齢等)で参加者が構成されるようにする。参加者数に応じて1班10名以内に班分けし、WSの最後に班ごとの発表を行う(図3)。
  • 上記プログラムにより、参加者が自由に多様な意見を出し合うことで、新たな生産品目、農業収益の向上策など、農地利用再編後の地域営農に関する具体的アイデアも得られる。これらの具体的アイデアは、WS実施側の目的である地域の農地利用再編の必要性の認識や、その方向性の検討を促す要素としても作用する(図4)。
  • WSで出た意見・アイデアを分類し、後日、広報して地域全体で共有する。
  • WS後に、具体的な地域の取組みの企画・実践に向けた働きかけを行う。農地利用再編を進めたい担い手等やWSで主導的意見を述べた参加者を抽出し、具体的な取組みを検討・企画してもよい。なお、実施事例ではWSの後、地域側の発意で、2つの集落営農組合の将来の合併・法人化を目標とした勉強会が企画・実施されている。

成果の活用面・留意点

  • 地方自治体・農地中間管理機構等、農地利用再編施策の推進側による活用を想定しているが、担い手等、地区側の発意による活用にも応用が可能である。
  • WSの話し合い内容が自治体への要望に偏るのを避け、地域発意の自主的な取組みを促すためには、外部の人材(大学等の研究者、コンサルタント等)をコーディネーターに起用するとよい。
  • 直接WS参加者を集めるのが困難な場合は、土地改良区・普及センター職員等で対象地域住民とのつながりが強い人材に世話人を依頼するとよい。

具体的データ

図1 農地利用再編に向けた地域の取組みを促すためのWSの実施手順;図2 WSで用いた荒廃農地マップ(地区の一部);図3 WS実施の様子;図4 WSの話し合いの整理例(左),農地利用再編に関するアイデアと
他のアイデア(主に地域営農に関するもの)の関連(右)

その他

  • 予算区分:交付金、競争的資金(科研費)
  • 研究期間:2014~2017年度
  • 研究担当者:芦田敏文、進藤惣治、唐崎卓也、遠藤和子
  • 発表論文等:進藤ら(2016)農業農村工学会誌、85(1):15-18