浸透解析と電気探査の数値解析を組み合わせた漏水位置の推定精度の向上

要約

地中の漏水位置推定には、電気探査を用いる手法がある。これに浸透解析を組み合わせ、誤差を最小化する漏水モデルを作成して、漏水位置を推定することで、精度が向上する。

  • キーワード:浸透解析、電気探査、水分移動、漏水位置推定、2次元探査データ
  • 担当:農村工学研究部門・施設工学研究領域・地域防災ユニット
  • 代表連絡先:電話029-838-7677
  • 分類:研究成果情報

背景・ねらい

地震などによって発生した農地の漏水位置は、早い段階でその領域を特定して必要に応じた対策を施す必要があるが、地表面からは確認できず、掘削しても直接確認できない場合も多い。地面に電流を流し、その応答から土内部を推定する電気探査は、比抵抗と水分量に相関があることから漏水による浸透を可視化する有効な手段であるが、測線数が少ないと漏水位置の推定が困難な場合がある。しかし、可視化する浸透部は浸透現象に従うため、浸透解析を考慮することにより、推定精度が向上すると期待される。そこで、これまで電気探査の解析データのみで推定していた漏水位置を,浸透解析データと組み合わせることにより,より精度よくピンポイントで特定できる手法を開発する。

成果の内容・特徴

  • 提案手法の流れを図1に示す。漏水が想定される現地において、湛水試験時に電気探査を行い、時系列の探査データを取得する。得られた現地探査データの比抵抗逆解析から浸透の有無や範囲などの状況を把握する。想定された浸透状況と既存文献等の水分特性曲線から漏水モデルを作成し、浸透解析を実施し水分分布を計算する。得られた水分分布を比抵抗分布に変換し、電気探査の計算探査データを順解析する。得られた計算探査データと現地探査データの差の二乗和を誤差として比較する。漏水位置を変えて浸透解析以降の計算を繰り返し、誤差を最小とする漏水モデルから漏水位置を推定する。
  • 図2は数値実験による本手法の検証のための農地の漏水モデルである。農地の構造は、透水係数の異なる3層からなるものとし、二つの湛水域にそれぞれ漏水位置を設定し、湛水試験時に4測線で電気探査を行う。図3は数値実験の結果を示す。図3aは浸透解析を行い、水分分布から変換した比抵抗の変化で、漏水位置の真下で最大となっている。従来法の結果では、地中内に浸透していること、その範囲が湛水域の近くであることが推定できるが、漏水位置の外側に設定された測線の真下の比抵抗変化が大きくなり、漏水位置を正確に再現できていない(図3b)。一方、湛水範囲内の1メッシュを漏水位置とみなして、浸透解析・電気探査の順解析を実施し、求めた計算探査データと模擬現地探査データの誤差を計算する提案手法では、各湛水域で誤差が最少となる位置が、図2であらかじめ設定した漏水位置と一致し、浸透解析データを組み込む効果が認められる(図3c)。
  • 図4は、現地実験への適用例を示す。図4aの水色は湛水範囲を示す。従来法では、地下部への浸透があることや湛水域近くで浸透があることを把握できるが、実際に湛水した範囲外に比抵抗変化率の大きくなる位置が見られ、浸透位置の特定は困難である(図4b)。一方、提案手法では、誤差が最小となる位置が湛水範囲内にあり、より詳細な浸透位置の推定ができる(図4c)。

成果の活用面・留意点

  • 電気探査から浸透状況を推定し、漏水モデルを作成する。漏水モデルにおける浸透解析では既存文献等からの水分特性曲線が必要である。
  • 解析メッシュサイズの漏水が各湛水域の表層に1つ存在することを想定した場合に適用できる。

具体的データ

図1 提案手法の流れ;図2 精度検証用の浸透解析モデル;図3 数値実験における推定;図4 現地実験による浸透部の推定

その他

  • 予算区分:交付金、競争的資金(科研費)
  • 研究期間:2015~2017年度
  • 研究担当者:井上敬資、吉迫宏、紺野道昭、正田大輔、中里裕臣
  • 発表論文等:
  • 1)Inoue et al. (2017) Exp. Geo. 48(3):332-343 doi:10.1071/EG16035
    2)Inoue et al. (2018) Exp. Geo. 49(2):231-241 doi:10.1071/EG17019
    3)Inoue et al. (2018) Exp. Geo. 49(3):299-308 doi:10.1071/EG17054