園芸用施設への微小害虫の侵入を抑制する新防虫ネット

要約

微量の薬剤が網糸に練り込まれている新開発の防虫ネットは、微小害虫に対する忌避効果がある。虫がネットに直接触れると薬剤を感知し、長時間留まり続けることができない。また、目合いは0.75mmであるが、従来品よりも糸径が細く、1.0mm目合いのネットと同等の通気性を有する。

  • キーワード:防虫ネット、微小害虫、化学的忌避効果、施設園芸、高温抑制
  • 担当:農村工学研究部門・農地基盤工学研究領域・農業施設ユニット
  • 代表連絡先:029-838-7655
  • 分類:普及成果情報

背景・ねらい

防虫ネットはポリエチレンを主材料とする糸で織られた資材であり、防除対象とする害虫の大きさよりも糸間の目合いを小さくすることにより、害虫の侵入を抑制する。これまでの園芸施設では、一般的に0.6~0.8mm目合いの防虫ネットが用いられてきた。しかし、近年、コナジラミ類やアザミウマ類などの微小害虫が媒介するウイルス病による園芸作物への被害が大きな問題となっており、これら微小害虫の侵入を抑制するには、従来よりも目合いの小さな0.4mm以下の防虫ネットを適用することが推奨されている。一方、園芸施設の大規模化や太陽光利用型植物工場の普及が進み、夏期を含めた施設の周年利用のニーズが高まっている。しかし、5~9月にかけての高温期に目合いの小さな防虫ネットを展張すると、施設の自然換気量が減少するため室内の気温が上昇し、作物の生育・収量は低下する。さらに、農作業者の温熱負荷が高まり、熱中症の発生のリスクも高まる。そこで、本研究では園芸施設への微小害虫の侵入を抑制する能力と、園芸施設の高温抑制に資する通気能力が両立する防虫ネットの研究・開発を産官学連携により進め、新たな防虫ネットの社会実装を目指す。

成果の内容・特徴

  • 防虫ネットの編み糸に合成ピレスロイド剤のエトフェンプロックスを練り込むことにより、コナジラミ類やアザミウマ類など微小害虫への忌避効果を有することが確認され、園芸施設専用の防虫ネットとして上市されている(図1、2)。
  • 防虫ネットの網糸の表面に滲み出るエトフェンプロックスは微量であるとともに、特殊な技法で練り込まれているため、蒸散・揮発せず、その忌避効果は約5年間持続されるように製造されている。また、害虫は網糸に直接触れることによりエトフェンプロックスを感知し、防虫ネットに長時間留まり続けることを防ぐ化学的忌避効果がある。害虫の侵入を完全に防ぐことはできないが、同じ目合いの従来の防虫ネットよりも農薬の使用回数を減らすことに資する(図3)。
  • 目合いは0.75mmでありながら従来品よりも細い糸を使用しているため、一般的に普及している1.0mm目合いの防虫ネットと同等の通気性を有する(データ略)。新防虫ネットは、微小害虫の侵入を抑制する機能と園芸施設の高温抑制に資する通気能力を備えている。

普及のための参考情報

  • 普及対象:施設園芸生産者(野菜、花き、果樹等)、普及指導機関
  • 普及予定地域:全国
  • エトフェンプロックスの作用は従来のピレスロイドと同様であるが、温血動物に対し毒性や皮膚、粘膜に対する刺激性が低く、中央薬事審議会でピレスロイド様殺虫剤と決定されている。
  • 新防虫ネットは施設園芸専用に開発されており、作物に直接触れる可能性があるベタガケやトンネルには使用できない。ネットの色をモスグリーン調とすることで、一般品と区別している。
  • 新防虫ネットは同じ0.75mm目合いの一般防虫ネットと比べ、約1.5~2倍の価格である。
  • 新防虫ネットによる殺虫効果は無いため、園芸施設への侵入を100%防ぐことはできない。そのため、既存の農薬による防除との併用が必要であるが、散布回数の削減に資する。

具体的データ

図1  従来品の防虫ネット(0.75mm目合いとオンシツコナジラミの体長、体幅の関係,図2 園芸施設に施工された新防虫ネットの実施例,図3 新防虫ネットの効果

その他

  • 予算区分:交付金、その他外部資金(27補正「地域戦略プロ」)
  • 研究期間:2016~2018年度
  • 研究担当者:石井雅久、奥島里美、森山英樹、櫻井民人、久保田健嗣、大西純、後藤英司(千葉大)、彦坂晶子(千葉大)、内田剛人(ダイオ化成)、石井真吏(ダイオ化成)
  • 発表論文等:石井ら、特願(2018年1月15日)