漏水探査ロボットを用いたパイプラインの漏水位置検出技術

要約

空気弁から投入・回収が可能な超小型カプセル型の漏水探査ロボットを利用した漏水位置検出技術である。ロボットは管内を自然流下しながら管内音を記録する。記録した管内音から漏水位置を通過した時間を判別し、ロボットの流下速度等から漏水位置を検出する。

  • キーワード:パイプライン、漏水探査、漏水音、自動判別、ロボット
  • 担当:農村工学研究部門・施設工学研究領域・施設保全ユニット
  • 代表連絡先:電話029-838-7677
  • 分類:普及成果情報

背景・ねらい

農業用パイプラインは1960年代から本格的に整備が始まり、基幹的施設の総延長は全国で約1万2千kmに達する。一方、パイプラインの突発事故は年々増加しており、1993~2014年度の約20年間では6,739件と農業水利施設全体の事故件数の約6割程度を占める。管水路パイプラインの漏水事故を減少させるためには、漏水を初期段階で発見し大規模な事故が発生する前に適切な対策を講じることが望ましいが、パイプラインの漏水探査技術は精度及びコストの面から一般的技術としては確立されていない。本研究では、通水中のパイプラインに空気弁から超小型カプセル型の漏水探査ロボットを投入・回収し、記録した管内音から漏水位置を推定する漏水位置検出技術を開発する。

成果の内容・特徴

  • 漏水探査ロボットを用いたパイプラインの漏水探査技術の概要を図1に示す。パイプラインに設置されているφ75mm以上の空気弁から探査ロボットを投入・回収する。ロボットの見かけの比重を水と等しい1.0に調整することにより、ロボットは管内の水流に乗り泥などの障害物を避けながら自由流下する。管内音はSDカードに記録される。ロボットを回収後、SDカードに記録された管内音から漏水音を判別し漏水位置を特定する。
  • ロボットの寸法・形状及び目標性能を図2に示す。ロボットの形状はカプセル型である。直径は55mm、長さは165mmである。内径φ75mm以上の空気弁から投入・回収ができる。ロボットの前後には水中マイクが搭載されており、管内音をステレオ録音する。内部にはジャイロセンサを搭載しており、曲がり管などの位置を検出する。外殻はジュラルミン製である。設計耐水圧は1.0MPaである(室内実験では水圧3.0MPaの耐水圧試験に合格している。安全をみてその1/3を設計水圧とした)。動力はなく管内を自然流下する。管内流速が大きいとロボットが内壁に衝突し雑音が増加するため、0.3~0.4m/秒が最適な管内流速である。
  • 図3(a)に漏水音の判別及び漏水位置の推定方法を示す。管内音響の短時間フーリエ変換及びその周波数成分の時間変化(周波数スペクトログラム)のグラフを見ながら人が漏水音を検聴して漏水音を検出する。ロボットの投入・回収時刻と管路の距離からロボットの流下速度を求め、ロボットが等速流下していると仮定し、流下速度に流下時間を乗じて装置位置及び漏水位置を推定する。この他に、実際の漏水音を混合正規分布で音響モデル化することで管内音響データから自動的に漏水音を判別する手法を開発した(図3(b))。実験管水路での精度検証試験から、検聴による漏水位置通過時刻との誤差は1秒以内に収まることが確認された。

普及のための参考情報

  • 普及対象:パイプラインを管理する国、県、地方自治体、土地改良区等の団体
  • 普及予定地域・普及予定面積・普及台数等:φ75mm以上の空気弁が設置された口径200mm以上のパイプライン8,000kmを対象とする。

具体的データ

図1 漏水位置探査技術の概要,図2 ロボットの概形と目標性能,図3 漏水音の判別と位置推定

その他

  • 予算区分:交付金、その他外部資金(SIP)
  • 研究期間:2014~2018年度
  • 研究担当者:中嶋勇、森充広、川上昭彦、川邉翔平、財部伸一(株式会社ウォールナット)、古澤修(ジャパンライフ株式会社)、中村淳(ジャパンライフ株式会社)、田野俊一(電気通信大学)、高木一幸(電気通信大学)
  • 発表論文等:
    • 浅野ら(2018)農業農村工学誌、86(6):513-516
    • 高木ら(2018)日本音響学会2018年春季研究発表会公演論文集、1-P-44:631−634
    • 中嶋ら、特願(2018年2月28日)