省力的な採水法による六フッ化硫黄を指標とした地下水の年代測定

要約

井戸用採水器の使用により採水時間の短縮を可能にする六フッ化硫黄を指標とした地下水の年代測定法である。ポンプを使用しないため調査機材の簡素化・軽量化が可能であり、採水時間の短縮効果に加え、調査者の作業労力軽減、調査能率向上に有効である。

  • キーワード:地下水、年代推定、六フッ化硫黄、省力化、井戸用採水器
  • 担当:農村工学研究部門・地域資源工学研究領域・地下水資源ユニット
  • 代表連絡先:電話029-838-7677
  • 分類:普及成果情報

背景・ねらい

地下水の滞留時間や涵養年代からは、流動経路、涵養源の異なる地下水の混合率、地下水資源の循環速度等の推定が可能であり、適切な地下水資源管理において重要な情報を得ることができる。特に浅層地下水の利用が中心の農業農村地域、流動の速い中山間地域の斜面では、滞留時間が数年~数十年と比較的短い地下水が流動しており、そのような地下水の年代の推定には六フッ化硫黄(SF6)が有効である(2014年度研究成果情報http://www.naro.affrc.go.jp/project/results/laboratory/nkk/2014/nkk14_s17.html)。SF6を用いた年代測定では、単調増加する大気中のSF6濃度と過去に涵養された地下水中のSF6濃度の比較から滞留時間を推定するため、採水においてはポンプを用いる等して大気と試料水を接触させない方法が用いられる。これらの制約によって生じる採水のための時間と労力を削減できれば、より効率的な調査が可能になる。そこで、井戸用採水器を用いて採水時間の短縮を可能とした、使用機材の少ない省力的な年代測定法を提示する。

成果の内容・特徴

  • 提案する年代測定法では、井戸用採水器を用いて採取した地下水を、地上で試料ビンへ注水する省力的な採水法(以下、省力法)を用いる(図1)。試料ビンへ繰り返し注水し、試料水を外側容器へ溢れさせて満たした後に、気泡が混入しないよう水中で試料ビンにキャップする。
  • 気相から液相へのSF6の溶解過程のモデル計算によれば、採水過程において試料水が大気に接触した場合であっても試料中のSF6濃度上昇は1%に満たず、分析誤差3%の範囲内である。省力法を用いて採取した地下水と従来通り大気と接触させずに採取した地下水のSF6濃度との差は、両者の平均値に対して2%(見かけの滞留時間0.5年程度)であり、分析誤差未満の差である(図2)。これより、省力法を用いて採水過程で試料水が大気へ接触したとしても、大気中のSF6の試料水への溶解の影響は極めて小さい。
  • 使用する機材や地下水の採取深度にもよるが、1地点あたり2本の試料(500mL×2本)を採取する場合、機材の準備も含めた採水に要する時間は、省力法を用いることで60~70%程度削減される(図3)。本手法により従来法と同等の精度で、調査コスト・作業量の低減が可能となる。
  • 井戸用採水器を用いる場合、ポンプの揚程に伴う採水深度の制限がなくなるだけでなく、ポンプ等の機材を自動車で運搬する必要がなくなるため(例えば、図3bのポンプでの採水と比較した場合、使用機材の重量は約15分の1に低減)、採水時間の短縮効果のみならず、現地での調査者の作業労力軽減、調査能率向上に資する。

普及のための参考情報

  • 普及対象:地下水の利用・保全・管理に携わる行政部局、民間事業者、研究者
  • 普及予定地域・普及予定面積・普及台数等:国、地方自治体等の地下水調査実施地区
  • その他:本成果は、井戸や観測孔の地下水の年代推定調査に適用可能であるだけでなく、採水時に大気に触れざるを得ない地下水(例えば、湧水等)も調査対象となることを示している。また、試料ビンの外側容器としてより容量の小さい容器を用いることで、さらに採水時間を短縮させることが可能である。本手法を用いて調査する際の手順や留意点をまとめたマニュアルを提供できる。

具体的データ

図1 従来の採水法と省力的な採水法の比較,図2 省力的な採水法適用時の地下水のSF6濃度および滞留時間,図3 採水時間の短縮効果(1地点あたりの採水時間)

その他

  • 予算区分:交付金、委託プロ(温暖化適応・異常気象対応)、競争的資金(科研費)
  • 研究期間:2016~2018年度
  • 研究担当者:土原健雄、吉本周平、白旗克志、石田聡、中里裕臣
  • 発表論文等: