農業水路における魚の棲みやすさを評価するプログラム

要約

農業水路の「魚の棲みやすさ」を数値化するプログラムである。水路に棲む魚の種数、総個体数と、水路の物理的環境のデータから計算式を自動的に作成し、魚の棲みやすさを水路の区間ごとに5段階で評価できる。

  • キーワード:農業水利施設、生物多様性、生態系配慮、農業農村整備事業、魚類
  • 担当:農村工学研究部門・水利工学研究領域・水域環境ユニット
  • 代表連絡先:電話029-838-7677
  • 分類:普及成果情報

背景・ねらい

灌漑や排水を目的に整備・管理されてきた農業水路には、魚をはじめとする多くの水生生物が棲息する。近年では、魚などの生息環境に配慮した水路が全国各地でつくられ、多面的機能支払交付金などを活用しながら水路の生態系調査や生息環境の保全活動に取り組む事例が増えている。しかし、魚が棲みやすいかどうかの判断には専門知識が必要であり、取組み効果の確認や、棲みかとして改善すべき箇所の抽出が難しいのが課題である。そこで、水路の区間ごとの相対的な「魚の棲みやすさ」を簡単に評価できるプログラムを開発する。

成果の内容・特徴

  • 「魚の棲みやすさ評価プログラム」は、対象とする水路における魚の棲みやすさを計算によって5段階で出力し、魚の棲みやすさを水路の区間ごとに相対的に評価できる(図1)。また、生息環境の改善を行う場合にどの区間から優先すべきかを判断するうえでの有効な指標を示すことができる。
  • 本プログラムで水路を評価する際は、現地作業として、対象とする水路において調査区間を10以上設け、魚の採捕調査(種数と総個体数)および水路の環境調査(植生、水深、流速、底質)を行う必要がある(図2、図3)。計算は、データの入力と、ワークシートのボタンのクリックで実行できる(図4)。
  • 魚の棲みやすさは、魚の種数と総個体数が多いほど高得点になるように指標化され、水路の環境調査のデータを変数とする計算式で表される。対象とした水路に適した計算式が自動的に作成されるため、水路の環境が大きく変わらない限り同じ計算式が適用でき、2年目以降の評価の際には魚の採捕調査を省略することができる。
  • 東北地方の生息環境に配慮した排水路(190mの19区間)に適用した事例では、本プログラムで計算された点数と生息環境の評価に用いられる専門的な指数との間に整合性がみられ、本プログラムによる評価結果の妥当性が確認されている。
  • プログラムにかかる一連の手順は、公開済みのマニュアル「魚が棲みやすい農業水路を目指して」において詳しく説明されている。また、魚の棲みやすさを改善するための手法や工法の事例、水路でみられる各魚種の特徴等の情報を併せてまとめている。

普及のための参考情報

  • 普及対象:農業農村整備事業に携わる技術者、多面的機能支払交付金の活動組織
  • 普及予定地域・普及予定面積・普及台数等:水生生物の生息環境に配慮した水路が施工されている地域や水生生物の生息調査が行われている地域
  • その他:本プログラムによる評価結果は、対象とする水路における相対的・目安的な値であり、絶対値ではないことに留意する。また、プログラムおよびマニュアルは農研機構のWEBページ「魚が棲みやすい農業水路を目指して」に掲載され、YouTubeには成果の紹介ビデオが掲載されている(https://www.youtube.com/watch?v=UknrlEQWk4w)。

具体的データ

図1 魚の棲みやすさの評価イメージ,図2 魚の採捕調査,図3 水路の環境調査,図4 計算過程の表示例

その他

  • 予算区分:交付金、委託プロ(温暖化対応・異常気象対応)
  • 研究期間:2013~2018年度
  • 研究担当者:渡部恵司、嶺田拓也、小出水規行、森淳(北里大学)、竹村武士、山岡賢、吉永育生
  • 発表論文等: