多面的機能支払交付金の地域波及効果を評価できるWEBアプリケーション

要約

多面的機能支払交付金による農業水利施設の長寿命化や地域環境整備のための取り組みが、実施市町村と他地域に波及する効果を、行政機関などの実務者がWEB上の簡単な操作により定量化できるツールである。

  • キーワード:経済波及効果、多面的機能支払交付金、施設の補修・補強による長寿命化、産業連関分析
  • 担当:農村工学研究部門・地域資源工学研究領域・資源評価ユニット
  • 代表連絡先:電話029-838-7677
  • 分類:普及成果情報

背景・ねらい

多面的機能支払交付金による農用地、水路、農道等の地域資源保全管理のための取り組みが、全国1,429市町村(2017年度時点)において、公的な資金を投入して実施されている。交付金支出に関する行政施策のアカウンタビリティーを高めるため、交付金支出が実施市町村の経済活性化にどの程度貢献するのかを明らかにすることが重要となっている。そこで、国、都道府県、市町村の行政担当者が、WEB上で多面的機能支払交付金の支出額と実施市町村名を入力するだけで、自市町村内と他地域(実施都道府県内の他市町村及び他都道府県)において発現する経済波及効果を簡単かつ定量的に算定し、施策の評価資料として活用できるツールを開発する。

成果の内容・特徴

  • ユーザーがWEB上のアプリケーションを用いて、多面的機能支払交付金の使途別の支出額を入力するのみで、地域別(自市町村、自都道府県内の他市町村、他の都道府県)の波及効果を定量化できる。操作は、農研機構のホームページから参照可能なウェブサイト上で、対話形式で行う(図1、図2)。
  • 多面的機能支払交付金の使途別支出額は、産業連関表の区分にしたがって、52区分ごとの値を入力する。この他に、簡易的に評価する場合は、1)日当、2)購入・リース費、3)外注費(土木工事)、4)外注費(土木工事以外)、5)報酬・賃金・謝金・旅費、6)その他の6区分毎の支出額を入力して評価することもできる。
  • アプリケーションの中では、組み込まれた47都道府県地域間産業連関表と各県の市町村民所得額シェアのデータをもとに、産業連関モデルと地域シェア法を用いて、後方連関効果(交付金支出が関連産業に波及する効果)、所得連関効果(交付金支出による雇用者所得の増加が消費需要を通じて波及する効果)を計算している(図3)。結果となる効果指標は、地域内の関連企業の総売り上げを示す生産誘発額、生産増加に伴って生じる雇用者所得等の付加価値誘発額及び新たに生まれる雇用を知るための雇用誘発者数である。
  • 本ツールを用いて、交付金を活用して資材を購入し、地域住民の自主施工により施設の補修・補強を行っているM県T町の事例と、交付金を活用して建設業者への発注により施設の補修・補強を行っているA県Y市の事例について波及効果を算定すると、M県T町の場合は、100千円の交付金支出に対し126千円が取り組み実施市町村内に波及(自地域内波及率38%)すること、またA県Y市の場合は、100千円の交付金支出に対し106千円が取り組み実施市町村内に波及(自地域内波及率31%)することが分かる(表1)。

普及のための参考情報

  • 普及対象:国・都道府県・市町村等で農業農村整備事業等の計画策定に携わる実務者
  • 普及予定地域・普及予定面積・普及台数等:全国で年間およそ10地区
  • その他:アプリケーションには2011年の産業連関表を組み込んでおり、他の年次の支出額による評価結果は、経済構造が変わらないと仮定した値である。また、ツールの具体的な使用方法や理論的背景については、農研機構報告(2018)を参照されたい。

具体的データ

図1 データ入力画面(抜粋),図2 分析結果出力画面(抜粋),図3 経済波及効果の評価手法(産業連関モデル)の概要,表1 波及効果の分析例(10万円の支出に対する生産誘発効果)

その他

  • 予算区分:交付金、競争的資金(科研費)、その他外部資金(SIP)
  • 研究期間:2016~2018年度
  • 研究担当者:國光洋二、上田達己
  • 発表論文等:
    • 國光ほか(2018)農業農村工学会論文集、307:I_155-I_161
    • 上田、國光(2018)農研機構研究報告農村工学研究部門、2:81-103
    • 農研機構(2019)「多面的機能支払交付金経済評価ツール」http://kinohyoka.jp(2018年12月1日公開)