屋根開放型温室の高温抑制効果と室内環境の特徴

要約

屋根開放型温室内の日射量は屋外に近い時間帯と、構造・被覆材の影で低下する時間帯がある。自然換気条件では無遮光の気温が最も低く、遮光カーテンを閉じる割合が増えるほど高くなる。自然換気条件で細霧冷房の制御を行うと、無遮光よりも遮光カーテンを閉じた方が気温は低くなる。

  • キーワード:自然換気、遮光、細霧冷房、環境制御、湿球黒球温度
  • 担当:農村工学研究部門・農地基盤工学研究領域・農業施設ユニット
  • 代表連絡先:電話029-838-7677
  • 分類:研究成果情報

背景・ねらい

次世代園芸拠点や植物工場拠点などの整備により施設規模が拡大する中、施設の年間利用率を高めるための高温抑制技術が求められている。特に、施設規模を拡大には外部雇用が前提となるが、農業に熟練していない作業者が安全かつ快適に労働できる環境を創出することが課題となっている。温室の経済的な高温抑制技術として、換気量を増加させて施設内の気温を外気温に近づけること、遮光カーテンを用いて日射を遮ること、細霧冷房やパッドアンドファンなど気化冷却により気温を低下させること、などがある。近年は、従来の温室よりも自然換気に優れる屋根開放型温室が開発されているが、計測事例は少なく、環境特性などは明らかでない。本研究では、自然換気、遮光、細霧冷房など一般的な高温抑制手法を屋根開放型温室に適用したときの環境を明らかにする。

成果の内容・特徴

  • 屋根開放型温室はフェンロー型と類似するが、一方の屋根下端を支点に、もう一方の下端を水平移動して屋根を折り畳むことにより、床面積に対し70%の割合で開放する。屋根開放型温室(間口6.4m、奥行19.9m、軒高4.5m、南北棟)を3棟供試し、屋根は全開とし、遮光カーテン(遮光率65%)の閉じる割合を3水準(無遮光、遮光50%閉、遮光100%閉)設けている(図1)。
  • 無遮光および遮光50%閉の日射量は屋外に等しい時間帯があるが、構造材や資材の影で低下する時間帯がある。各温室の平均日射透過率は、無遮光が69%、遮光50%閉が41%、遮光100%が22%である(図2-a)。
  • 各温室の気温は、無遮光が最も低く、遮光する割合が増えるほど高くなる。この要因として、遮光カーテンを閉じると、外気と内気との換気が抑制されることがある(図2-b)。
  • 8~17時の湿球黒球温度は、遮光100%閉が無遮光および遮光50%閉よりも高い。日本体育協会が定める湿球黒球温度(WBGT:Wet Bulb Globe Temperature)の許容温度条件により評価すると、無遮光はすべての時間帯を通して警戒(25~28oC)の温度域であったのに対し、遮光50%閉では12~13時の間、遮光100%閉では10~14時の間で、厳重警戒(WBGT:28~31°C )の温度域まで上昇している(図2-c)。すなわち、屋根開放型温室では、遮光カーテンによる遮光よりも自然換気を優先させた方が高温抑制効果を高めることができる。
  • 無遮光と遮光100%閉の条件で細霧冷房を行うと、無遮光よりも遮光条件の方が気温は低下し、高温抑制効果は高まるが、相対湿度は上昇する。この原因として、無遮光条件では噴霧量に対し、換気量が多すぎるため気温が外気に近づいてしまうが、遮光カーテンを閉じると、冷却された内気と外気との換気のバランスが取れ、冷却が持続していると考えられる(図3)。

成果の活用面・留意点

  • 屋根開放型温室は高温抑制効果が高い温室であるが、室内は露地に近い環境となる。
  • 屋根開放型温室は高温抑制効果が高い一方、日射量、気温、湿度、気流、CO2などの変化が一般の温室とは異なる。温室の高温抑制を実現する上で、換気窓の開放面積を増大させることが重要であるが、今後は高温期に適応する新たな温室構造および環境制御技術を開発する必要がある。

具体的データ

図1 屋根開放型温室の概要,図2 屋根開放型温室の日射量(a)、気温(b)、湿球黒球温度(c)の変化(9月22日),図3 屋根開放型温室の気温(a)、相対湿度(b)の変化(10月12日)

その他

  • 予算区分:交付金
  • 研究期間:2011~2018年度
  • 研究担当者:石井雅久、奥島里美、森山英樹、佐瀬勘紀(日大)、福地信彦(千葉農総セ)、丸尾達(千葉大)、Arend-Jan Both(ラトガース大)
  • 発表論文等:Ishii M. et al. (2017) Acta Hort. 1170:897-904