管水路の水撃圧波形を用いた漏水量、漏水位置の推定手法

要約

本手法は、管水路制水弁を急閉鎖した際に生じる第一波目の圧力波形を分析することで、漏水量と漏水位置を推定するものである。全長900mの一様管路における模型実験での誤差は漏水位置0.2~1.1%、漏水量0%~17%と小さく、本手法による推定精度は高い。

  • キーワード:管水路、水撃圧、漏水、圧力波形
  • 担当:農村工学研究部門・水利工学研究領域・沿岸域水理ユニット
  • 代表連絡先:電話029-838-7677
  • 分類:研究成果情報

背景・ねらい

管水路の漏水は、輸送流体の損失だけでなく、周辺地盤の陥没や斜面崩壊を誘発することが懸念され、地域の住環境へ大きな脅威を与える。管水路は地中に埋設されているため、漏水は人知れず発生し、いつのまにか重大な事態に陥っていることが多い。したがって、漏水は初期の段階で早急に発見することが重要である。現在、様々な漏水探査技術が開発されており、実用化もされているが、これらは漏水の存在が明らかであり、かつ、おおよその漏水位置が推定されている状況で正確な漏水地点を特定するものがほとんどであり、迅速に漏水を検知することを目的としていない。そこで、本研究では管水路圧力の常時監視により圧力変動に含まれる漏水シグナルを捕捉することで漏水の発生を迅速に検知することを最終目標とする。

成果の内容・特徴

  • 本成果は常時監視による漏水検知手法の確立のための第一歩として、漏水シグナルの捕捉が容易な水撃現象について漏水量を推定するモデル(圧力低下量と漏水量との関係式)を構築し、全長約900m、直径約25mmのステンレス製一様管水路模型において検証したものである。
  • 制水弁の操作で発生した圧力波は、上流に伝わり漏水地点で反射波と通過波に分離する。漏水地点での反射波は位相が反転し下流へ向かう。位相の反転した反射波が観測地点に到達すると圧力が低下する。この反射波成分を検出すれば漏水の有無、位置、量を推定できる(図1)。なお、観測地点を通過した波(漏水部からの反射波)は制水弁で同位相で反射し、再び観測地点に到達し圧力が低下する。
  • 制水弁の急閉鎖により発生した圧力波は矩形の波となるため、漏水シグナル(波形の変形)の有無を容易に判別できる(図1)。
  • 圧力波形(第一波)が変化する時間と圧力の伝播速度(本実験では1,310m/s)から漏水位置が推定できる。
  • 圧力低下量(漏水箇所からの反射波成分 f1 )を読み取り、管水路圧力波動方程式から得られた圧力低下量 f1 と漏水量との関係式(図1)に代入することで漏水量を推定できる(図2)。
  • 模型実験による検証では、検出できた最小の漏水は、管水路模型450m地点の漏水で、漏水量0.011L/s(漏水比7.9%)の条件であり、そのときの漏水位置の推定誤差は1.62m、漏水量の推定誤差は9.1%である(表1、表2)。
  • 本手法は漏水位置が水槽(模型実験では上流端水槽)に近づくにつれて検知が難しくなる。模型実験との比較では、上流水槽に近い位置の漏水では漏水量0.023L/s(漏水比18.7%)の条件で漏水位置の推定誤差は4.93m、漏水量の推定誤差は17.4%である(表1、表2)。
  • 本手法は管径が小さいほど有利であり、圧力波の発生源(制水弁)に近い漏水ほど検知は容易になる。

成果の活用面・留意点

  • 本手法は現場の管水路において水撃圧を発生させることで実際に漏水探査としても利用できるが、その場合は、流量を小さくするなどし、発生させる水撃圧が管体にダメージを与えないよう留意する必要がある。
  • 今回の模型実験では、制水弁直上流に設置した圧力計により得られたデータを利用した。本手法は圧力計の設置位置は任意であるが、分析が煩雑になるため制水弁直上流に設置することを推奨する。
  • 今後は、通常の水利用の変動に伴って発生する圧力変動においても漏水シグナルを正確に捕捉できるか検証し、実用化を目指す。

具体的データ

図1 モデルの概要(漏水部での圧力の反射と通過および漏水時の圧力波形の変形),表1 実験条件,表2 漏水位置と漏水量の推定結果,図2 圧力波形(実験結果)

その他

  • 予算区分:交付金
  • 研究機関:2016~2018年度
  • 研究担当者:安瀬地一作、浅田洋平(東京大学)、木村匡臣(東京大学)
  • 発表論文等:浅田ら(2018)土木学会論文集B1(水工学)、74(4):I_613-I_618