GNSSを用いた小規模フィルダムの表面変位挙動監視

要約

GNSSによる表面変位観測は、観測データを日平均化処理することで、山に近く視界条件が劣る小規模なフィルダムの挙動監視に活用可能な精度を得ることができる。従来の手動観測に比べて労力の大幅な軽減と連続性の高い挙動評価が可能になる。

• キーワード:GNSS、フィルダム、表面変位、挙動監視
• 担当:農村工学研究部門・施設工学研究領域・施設構造ユニット
• 代表連絡先:電話029-838-7677
• 分類:研究成果情報

背景・ねらい

表面変位はフィルダムの維持管理上の重要な観測項目であるが、トータルステーション等を用いる現状の観測方法には、高コスト・重労力・観測精度確保の難しさ等の問題がある。その解決手段としてGNSS(GPS、GLONASS等の衛星測位システムの総称)による観測が国内の一部のダムに導入され始めているが、比較的大規模なダムが主体である。小規模ダムは上空視界の悪さやダム堤体変位量の小ささ等のGNSS観測にとって不利な条件を有する。本研究では、小規模ダムで現地試験観測を行い、その適用性を検証する。

成果の内容・特徴

• 現地試験の実施場所は、堤高14.9mの小規模な傾斜コア型フィルダムである。谷が狭いために天空に障害物が多く、GNSS観測にはやや厳しい条件である(図1)。
• 1周波スタティック方式で仰角マスクを30°に設定して3時間ごとに観測値を算出し、観測時間中に5以下のDOP(衛星配置状況に起因する精度低下率)値を得られない場合は欠測とする。また、トータルステーションとオートレベルによる手動観測を1回/週の頻度で併せて実施する。
• GNSS観測結果には、マルチパスの影響と考えられる日単位の周期的変動が認められる。天空内障害物が多い地点(A点)は少ない地点(B点)よりも変動幅が大きい。天空内障害物の仰角は、A点では上下流方向で5～11°、堤軸方向で23～42°、B点では上下流方向で3～14°、堤軸方向で21～32°である(図2)。
• 日平均値化するとその変動の影響を大幅に軽減できる。観測値の最大誤差は水平で約3mm、鉛直で約5mmであり、使用観測機の公称精度以上の精度である。手動観測(トータルステーションによる観測)に比べると、GNSS観測データの日平均値はバラツキが少ない(図3)。
• 手動観測(トータルステーションによる観測)に比べると、GNSS観測は変位挙動の妥当性(貯水位上昇に伴う貯水圧の作用による堤体の下流側への変位)と全観測地点における連続性・統一性が高い(図4)。この主な理由は、人為的操作ミスがないことと、多量のデータを得られるために統計処理対象のデータの母数が多いことである。

成果の活用面・留意点

• GNSSやトータルステーション等の観測精度は、計器の精度だけでなく現地環境等にも左右されることに留意が必要である。
• 積雪寒冷地では積雪や凍上への対策が必要になることがある。
• コストは長期的には縮減されるが、初期コストの負担が大きい。そのため、観測地点数を必要最小限に抑えるために、重要な観測地点を個々のダムで検討して選出する必要がある。
• コンクリートダムの変位監視にも適用可能である。
• 準天頂衛星システムのデータを併用すれば観測精度のさらなる向上を期待できる。

具体的データ

その他

• 予算区分:交付金
• 研究期間:2009～2016年度
• 研究担当者:田頭秀和、黒田清一郎、林田洋一、増川晋、浅野(中嶋)勇、佐藤哲郎(計測ネットサービス(株))、鈴木敏之((株)トプコン販売)
• 発表論文等:田頭ら(2017)農業農村工学会誌、85(3):7-10