人工ニューラルネットワークモデルを利用した排水機場遊水池の水位予測技術

要約

低平地における排水機場の運用において、人工的に発生させた模擬降雨データを学習した人工ニューラルネットワーク(ANN)モデルにより、リアルタイムで2時間後までの水位を最大変位に対して10%以内の誤差の精度で予測できる。

  • キーワード:ANNモデル、排水解析モデル、排水施設、低平地、水位予測
  • 担当:農村工学研究部門・水利工学研究領域・沿岸域水理ユニット
  • 代表連絡先:電話029-838-7677
  • 分類:研究成果情報

背景・ねらい

農業地域では、長年にわたる宅地転用により農地と市街地が混在し、農業排水施設が市街地等からの排水を負担する状況が全国で常態化している。さらに、近年の異常気象の頻発、農地作付けの変更、排水機場管理者の高齢化などにより、農業排水機場のより効率的かつ柔軟な運用が求められている。現状の排水機場の運転操作は、気象予報等を参考に管理者の経験から水位変化を予想して行われている。しかし、近年は、雨の降り方や流出率が変化しており、排水機場の操作の元になる水位の変化を見通すのが難しくなっている。本研究では、排水機場のリアルタイム水位・流量予測システムの構築を目指し、人工的に生成されたデータをもとに排水機場地点の水位を予測するANNモデルを構築する。

成果の内容・特徴

  • ANNとは、神経ネットワークを表現する概念に基づくデータ駆動型モデルのことで、複雑な非線形問題の解を得るために使用される。本研究では、一方向にデータが流れるフィードフォワード型ANNを採用した3層パーセプトロンを持つANNモデル(図1)を構築し、農業排水機場地点の水位を予測する。
  • 解析対象のA地区は、農地が主体の流域面積179haを有し、排水機場、水位調整を行う遊水池を持つ水田地帯で、無降雨時も含め常時機械排水されている(図2)。ANNモデルによる水位予測のデータフローを図3に示す。A地区では十分な観測データのストックがなかったために、2年・10年確率降雨イベントを含む様々なパターンの豪雨を人工的に発生させ、排水解析モデルで計算された流量・水位を入力データとする。それらのデータを用いて、ANNモデルのキャリブレーションのために機械学習を行い、その後に水位予測を行う。
  • ANNモデルの水位予測結果は、10個のデータグループをもとにK交換検証法を用いて、9個のグループで機械学習を行い、残りのグループで予測モデルを検証する。第1グループのデータ(降雨量:図4a)について、排水解析モデルの解析結果とANNモデルによる予測結果を比較すると、水位変動幅に対する二乗平均平方根誤差は、30分後・2時間後共に約10%以下であり(図4b、c)、良好な精度で予測できることがわかる。
  • 機械学習の範囲を超える降雨をANNモデルで予測する場合の数値実験を行う。降雨量の10年確率降雨イベントを機械学習させない場合には、そのイベント期間の最大水位に対するANNモデルの水位予測は、排水解析モデルの結果と比べて、約10%の差異が見られるが、水位上昇のタイミングは捉えている(図4d)。

成果の活用面・留意点

  • 対象地区では、過去の観測データが不十分だったため、様々なパターンの降雨データを人工的に発生させ降雨量・流量・水位のデータグループを構築したが、長期的な観測データがある地区では、ANNモデルの学習と予測に観測データを直接利用できる。
  • 予測精度のさらなる向上のために、気象庁からの予測降雨量も入力データとして取り込むことができる。

具体的データ

図1 ANNモデルのデータフロー,図2 A地区の排水概要図,図3 システム全体のデータ流れ(時刻:t-1=過去の時点、t0=現時点、t1=予測時点),図4 第1グループにおける降雨量・排水解析モデルからの結果(黒線)とANNモデルの予測結果(赤線)の比較:(a)降雨量、(b)30分後の水位予測結果、(c)2時間後の水位予測結果、(d)10年確率降雨イベント学習外の2時間後の水位予測結果(10年確率降雨イベントの期間のみプロットした)

その他

  • 予算区分:交付金、競争的資金(イノベ創出強化)、その他外部資金(SIP)
  • 研究期間:2017~2018年度
  • 研究担当者:木村延明、安瀬地一作、関島建志、桐博英、中田達(国際水管理研究所)
  • 発表論文等:木村ら(2019)農研機構研究報告 農村工学研究部門、3:71-80