ジビエを活用した農村振興の取り組みの類型化

要約

鳥獣被害対策を通じて捕獲されたシカ・イノシシなどの食用肉であるジビエを、農村振興につなげている事例は、取り組みの特徴から集落連携型、猟友会員主導型、広域連携型、法人経営型の4つの類型に分類できる。

  • キーワード:ジビエ、鳥獣被害対策、食肉加工処理施設、地域ぐるみ活動、類型化
  • 担当:農村工学研究部門・地域資源工学研究領域・資源評価ユニット
  • 代表連絡先:電話029-838-7677
  • 分類:研究成果情報

背景・ねらい

鳥獣被害対策を通じて捕獲されたシカやイノシシを、食用の野生鳥獣肉であるジビエとして利用する取り組みが各地で進められている。国はジビエ利用に関わるモデル地区の整備を開始するなど、ジビエの流通を促進する施策を展開している。しかし、国内の取り組みは緒についた段階にあり、ジビエ利用の推進には多くの課題がある。今後、地域がジビエ利用に取り組むに際して参考とすべき、国内の先行事例の特徴や留意点を明らかにする必要がある。そこで、地元自治体や地域組織などが関与する地域的な取り組み事例を抽出し、ジビエ利用の動向と課題を整理したうえ、ジビエを地域資源として活用することで農村振興につなげている事例の特徴を類型化する。

成果の内容・特徴

  • ジビエ利用に取り組む国内事例のなかから、狩猟者が個人事業としてジビエを販売する事例を除き、地元自治体や地域組織などが関与する地域的な取り組みは、2018年時点で40地区と推定できる。現状では、ジビエ利用の事業化に成功した事例は少なく、有害鳥獣捕獲による捕獲奨励金や、公的事業による食肉加工処理施設の整備、地域おこし協力隊や自治体職員の従事などによる公的支援によってジビエ利用が成立している。
  • ジビエ利用の課題は、以下の4点にまとめられる。1)地域における捕獲体制の整備:捕獲する人材の確保、ジビエ利用に適した捕獲方法、捕獲現場から解体処理施設への移送方法・体制の確立が必要。2)食肉加工処理施設の整備:衛生管理を確立した施設整備に数千万円のコストがかかり、一般的に行政による公共投資が必要。3)需要と供給のアンバランス:消費需要が小さく、安定供給も難しく、採算性の確保が難しい。4)地域での合意形成:有害鳥獣駆除への取り組みで利害関係が生じることがある。
  • ジビエ利用の優良事例を、地域住民の関与や取り組み主体の特徴をもとに類型化すると、集落連携型、猟友会員主導型、広域連携型、法人経営型の4つのタイプに分類できる(表1)。このうち、集落連携型は「地域ぐるみ活動」とも呼ばれ、農家を含む地元住民からなる集落組織や鳥獣被害対策グループが、自治体や地元事業者等と連携することで、鳥獣被害対策とジビエ利用を両立させる効果的な手法と評価できる。
  • ジビエ利用は経済効果のみならず農村振興に関わる以下のような多様な効果がみられる。1)捕獲個体の処理体制が確立されることによる捕獲従事者の負担軽減と支援、2)地域ブランドや観光資源としての活用、3)地域における鳥獣被害対策への意識と実績の向上、4)ジビエに関わる事業体の育成(図1)。
  • 本成果はWEB手引き「ジビエを地域資源として活用した農村振興」として、農研機構ウェブサイトからダウンロードできる。

成果の活用面・留意点

  • 本成果は、農林水産省が2018年に17地区を選定した「ジビエ利用モデル地区」や、ジビエ利用に向けた食肉加工処理施設の整備を含めたジビエ利用対策を検討する自治体での活用が期待される。

具体的データ

表1 ジビエ利用の事例の類型化,図1 ジビエ利用による農村振興に関わる多様な効果

その他

  • 予算区分:交付金
  • 研究期間:2016~2018年度
  • 研究担当者:唐﨑卓也、國光洋二、遠藤和子、成岡道男
  • 発表論文等:
    • 唐崎ら(2018)農業農村工学会誌、86(5):25-28
    • 農研機構(2019)Web手引き「農村振興に向けたジビエ利用の手引き」http://www.naro.affrc.go.jp/publicity_report/publication/laboratory/nire/index.html(準備中)