農業用ダム地震時挙動把握のための地震観測記録クラウド型逐次処理プログラム

要約

農業用ダム等における地震観測記録を種々の方法でクラウド型サーバ等にアップロードすることで、随時逐次的に解析処理をすることができるプログラムである。そのファイルを読み取り波形グラフとして図化し地震動等に関する情報を解析し表示できる。

  • キーワード:基幹農業水利施設、農業用ダム、地震計、地震観測波形記録、逐次解析
  • 担当:農村工学研究部門・施設工学研究領域・施設構造ユニット
  • 代表連絡先:電話 029-838-7569
  • 分類:普及成果情報

背景・ねらい

東北沖地震、熊本地震、北海道胆振地震など頻発する大規模地震災害を背景として、代表的な基幹農業水利施設である国営造成の農業用ダムでは、地震観測装置として地震計システムが整備されるとともに、そのような観測施設による情報をネットワークに集約するための体制も整備されている。一方で、地震計の波形観測記録は耐震評価などの安全性評価において重要な資料となるだけでなく、地震計の健全な稼働状況を確認することにもつながることから、波形観測記録を逐次確認することは有効であるが、実際には有料プログラムを用いて手作業で処理するか、業務として委託する必要があった。
本プログラムは、クラウド型サーバ等内に常駐稼働させることで、観測ファイルをサーバ内の指定フォルダにアップロードすれば、そのデータを自動的に処理し関係者が観測状況を確認することができ、また地震動や地震時のダムの挙動の特徴を確認することができる解析を自動的に行うことができる。

成果の内容・特徴

  • 本プログラムは、クラウド型サーバ等内に常駐稼働させ、サーバ内の所定のフォルダに種々の方法にて地震観測波形記録ファイル(以下データファイル)をアップロードすることにより活用することができる。アップロードの方法は手動SFTPによるアップロード、メールによるアップロード、自動アップローダによるアップロードなどに対応している。
  • 農業用ダムの地震計は場所や導入時期により、メーカーも機種も異なることが特徴である。本プログラムはメーカーからの情報提供により、現存の全ての地震計のメーカー、機種のデータファイルに対応しており、自動的に処理することができる。自動処理のフロー(図1)に示すように、データファイルが所定場所にアップロードされると、プリプロセッサープログラムが各種フォーマットで記録されたデータファイルを統一のデータフォーマットに変換し、場所・日時で整理された観測記録のデータベースを作成する。
  • 同時にデータを随時閲覧表示できるようにデータファイルについてはその数値データを読み取った上で、PDF形式により国際大ダムの標準フォーマットに準拠した形で図化が行われる。これにより農業用ダム等の関係者は随時地震観測記録に関して地震観測記録に関する基本的な情報を閲覧することができる(図2)。これにより実際に地震波形を随時確認することができ、例えば地震計の不具合も早期に検知できる(図2(b))。
  • プリプロセッサープログラムにより変換されたデータは標準的かつ統一的なフォーマットのデータファイルでデータベースフォルダ上に保存される。地震観測記録から安全性評価等に関する情報を必要とする関係者、技術者等は、その標準的なフォーマットに基づくデータファイルを対象として、適切に解析等を行うプログラムを作成すれば、過去のあらゆる地点のデータを解析することができる。一例として、大規模地震があった際にダムの地震計観測記録に対して、その地震動の特徴を明らかにするために行われた加速度応答解析および粒子軌跡(図3)、堤体の振動特性を明らかにするために行われたウェーブレット解析およびスペクトル解析(図4)の結果を示す。

普及のための参考情報

  • 普及対象:農業用ダムの維持管理や耐震評価に係る行政部局およびコンサルタント
  • 普及予定地域:国営事業で造成された農業用ダム(189基)や県営事業等造成の農業用ダムを想定
  • その他:本プログラムは地震計システムを運用している農業用ダム等の管理者、関係者が、既存のネットワークを活用して観測データを効率的に管理するために、省力的で自動的な管理システムを構築しようとする場合に、そのデータ処理プログラムとして活用することができる。

具体的データ

図1 クラウド型逐次処理プログラムのイメージ,図2 標準的なフォーマットに基づく地震計観測記録波形自動図化の事例,図3 加速度応答スペクトル・変位粒子線軌跡の逐次解析結果の事例,図4 ウェーブレット解析・スペクトル解析による振動特性に関する逐次解析結果の事例

その他

  • 予算区分:交付金、競争的資金(イノベ創出強化)
  • 研究期間:2016~2019年度
  • 研究担当者:黒田清一郎、田頭秀和、本間雄亮、増川晋
  • 発表論文等:
    • 黒田ら(2019)職務作成プログラム「地震観測記録逐次処理プログラム」
    • 黒田ら(2019)農研機構報告農村工学部門、3:99-105
    • 黒田ら(2017)農業農村工学会誌、85(3):3-7