豪雨対策となる水田の洪水防止機能の利活用に向けた湛水管理の条件

要約

新たな水稲減収尺度に基づいた、生育段階毎に減収を抑えて適正に水田の湛水深/期間を管理するための条件である。この情報は、耕作者が安心して水田の洪水防止機能を発揮させるための指標となり、豪雨対策となる水田利活用法の普及に役立つ。

  • キーワード:許容湛水管理、洪水防止機能、水稲減収尺度、気候変動対応策
  • 担当:農村工学研究部門・地域資源工学研究領域・水文水資源ユニット
  • 代表連絡先:電話 029-838-7509
  • 分類:普及成果情報

背景・ねらい

近年は豪雨による洪水被害が頻発しており、早急な対策が求められている。農業分野では、水田に水位調整器を設置して豪雨時の雨水流出を制限し、下流の水位上昇を抑制する洪水防止機能の活用技術が開発されており、多面的機能支払交付金の活動等で農家の協力を得て各地で取り組みが拡大している。水田を活用した豪雨対策を積極的に普及させるためには、水田や水稲へ影響がない安心できる湛水管理の条件を示し、耕作者の不安を取り除く必要がある。そこで、安心して湛水管理に取り組むために、水位上昇に伴い排水量が増加する水位調整器を開発すると同時に、現在の主要な水稲品種の冠水条件と被害の関係を表す減収尺度を新たに策定し、減収を抑えながら水田の洪水防止機能を強化するための指標となる、生育段階毎の湛水管理条件を示す。

成果の内容・特徴

  • 開発した調整板は、水位上昇に伴いスリット幅が広がり、排水量が増加する(図1)。これにより、降雨時に高い水位の継続期間を短縮し、低い水位の時には貯留機能がより強化されるよう工夫している。
  • 現在の主要な作付品種であるコシヒカリ、あきたこまち、ななつぼしを用いた冠水試験結果より、生育段階毎に冠水期間と減収率の関係を整理した水稲減収尺度を策定する(図2)。すべての品種で分げつ期は減収率が小さく、出穂前後は冠水に脆弱である傾向があるが、減収率は品種により多少の差が出る可能性がある。
  • 減収尺度を時系列に整理し、生育段階毎に減収を抑えられる水深と継続期間の関係を表す許容湛水管理の条件を決定する(図3)。田植え直後は過度の湛水を避け、活着後は草丈まで湛水を可能とし、草丈が伸びた後は最大湛水深を畦畔高さまでとする。水位調整器は、雨水貯留時の水深が最大湛水深未満となるように設定する。
  • 許容可能な湛水の継続期間は、水稲の耐冠水性から判断する。例えば比較的耐冠水性が高い分げつ期では5日未満、多少の危険性がある幼穂形成期や成熟期で3日未満、最も脆弱な出穂時期には1日未満で水深を下げる等が考えられる(図3)。

普及のための参考情報

  • 普及対象:農地排水や防災等に係る行政部局、水利施設管理に係る土地改良区、田んぼダムなどの多面的機能支払交付金の取り組み地域及び活動組織を対象。
  • 普及予定地域・普及予定面積・普及台数等:全国約240万haの水田と農家、排水施設を管理する土地改良区等を想定。
  • その他:減収尺度を策定した3品種で、全国の水稲作付割合の45%程度を占める。尺度は、洪水発生時の被害推計や、豪雨時の水田被害リスクのシミュレーション評価等にも活用できる。本尺度は倒伏による減収は考慮していない点に留意。本成果の事例では日雨量100mm程度の豪雨を対象としている。ここで開発した水位調整器は既に商品化され販売されており、多面的機能支払交付金の活動団体で使用実績がある(北海道岩見沢市で、R1年度時点で約250ha、次年度さらに250ha、最大1000haまで順次拡大予定)。

具体的データ

図1 水位調整器の設置による豪雨時の水田雨水貯留の様子,図2 地域・品種毎に策定した水稲を完全冠水させた場合の減収尺度,図3 水稲の減収を抑えられる生育段階別の湛水管理条件(コシヒカリの例)

その他

  • 予算区分:交付金、委託プロ(温暖化適応・異常気象対応)、その他外部資金(PRISM)
  • 研究期間:2015~2019年度
  • 研究担当者:皆川裕樹、北川巌、青羽遼(秋田県農試)、岡元英樹(道総研上川農試)、坂田賢、宮津進(新潟大)、久保田富次郎、池山和美、吉田武郎
  • 発表論文等:
    • 北川ら、特願(2018年8月13日)
    • 皆川ら(2016)農業農村工学会論文集、303:I_271-I_279