営農で実施できる土層改良と部分不耕起帯の併用による土壌流亡対策
要約
傾斜畑の土壌流亡対策として、浸透性を改善する土層改良と部分的に受食性を改善する部分不耕起帯設置の併用法を提案する。本対策は、生産者が営農で実施でき、単独で実施するよりも効果が向上する。
- キーワード:土壌流亡対策、土層改良、部分不耕起帯、傾斜畑、耕耘機、輪作
- 担当:農村工学研究部門・農地基盤工学研究領域・水田整備ユニット
- 代表連絡先:電話 029-838-7509
- 分類:普及成果情報
背景・ねらい
丘陵地形の畑作地帯では、近年の豪雨増加により土壌流亡の被害が甚大化しており、地域から早急な対応策の確立が求められている。基盤整備による勾配修正などの抜本的対策は効果的であるが時間と費用がかかる。そのため、緊急の対策として生産者が営農で実施可能な現実的な対策の充実が必要である。そこで、生産者が実施可能な心土破砕や補助暗渠などの土層改良と耕耘管理による部分不耕起帯の設置による土壌管理技術による土壌流亡対策を確立する。
成果の内容・特徴
- 提案する土壌流亡対策は、生産者が営農で実施できる土層改良と不耕起帯(ドットボーダー・プロテクト)設置との併用法である(図1)。前者は、麦などの収穫残渣を疎水材に利用する有材補助暗渠機カットソイラーなどにより、堅密土層を破砕して浸透性を高めることで表面流去水の発生を抑制する。後者は、等高線方向の作業時に0.5~5mの間隔ほど空けたライン状の不耕起帯、或いは、土壌流亡が多発する場所にドット状の部分不耕起帯を設置して部分的に受食性を改善する。
- 北海道美瑛町において本技術を適用した結果、収穫後の土層改良と部分不耕起帯による土壌流亡対策の裸地期間終了時までの土壌流亡量の削減率は、土層改良により2~3割、部分不耕起帯により2割程度であるのに対し、併用した場合は3~8割となり、単独よりも効果が向上する(表1)。
- 土壌流亡対策としての土層改良と部分不耕起帯の設置を実施するための留意点について整理(図1)するとともに、当該地域の畑輪作体系における実施スケジュールの事例を示す(図2)。
普及のための参考情報
- 普及対象:全国の畑地帯の農業者、自治体の担当部局、多面的機能支払活動組織、農業機械メーカー
- 普及予定地域・普及予定面積・普及台数等:生産者や自治体の防災対策担当、対象者が組織する地域対策協議会等を想定。現在、北海道美瑛町の土壌流亡対策協議会(生産者と行政)で導入が推進されている。
- その他:提案の土層改良技術カットシリーズは農業機械販売店から市販されている。また、本技術は北海道において2019年度北海道農業試験会議の普及推進事項に認定される。北海道総合研究機構と普及組織を通じた普及活動が進められることから、土壌流亡の軽減による流域の減災に貢献する。さらに、本技術と既存技術のグリーンベルトや樹林帯等を併用することで相乗効果が期待できる。本技術が対応する降雨量は80mm/日までを想定している。
具体的データ

その他
- 予算区分:交付金、委託プロ(温暖化適応・異常気象対応)
- 研究期間:2015~2019年度
- 研究担当者:北川巌、巽和也(道総研)、塚本康貴(道総研)、中村隆一(道総研)
- 発表論文等:
- 北川ら、特願(2018年10月5日)
- 巽ら(2019)畑地農業、730:1-6