水田転作時の圃場排水性を評価できるキャパシタンス式土壌水分計を用いた新たな指標

要約

水田転作時の圃場排水性について、3つのタイミングの体積含水率を解析することで定量的に評価できる。解析に必要な3つの体積含水率は、飽和状態、圃場容水量の状態、乾燥状態である。本指標を用いれば、同一地域内の複数の圃場の排水性を直接比較することが可能となる。

  • キーワード: 圃場排水性、キャパシタンス式土壌水分計、体積含水率、水田転換畑、耕盤直上
  • 担当: 農村工学研究部門・農地基盤工学研究領域・水田整備ユニット
  • 代表連絡先:電話 029-838-8394
  • 分類:研究成果情報

背景・ねらい

我が国では麦類の6割、大豆の8割は水田で作付けされており、圃場排水性を把握し適切な土壌水分環境を維持することは重要である。しかしながら、複数の圃場の圃場排水性を同時に比較する定量的な解析手法はこれまでない。そこで、近年機能が向上し安価になったキャパシタンス式土壌水分計(以下、土壌水分計とする)を用いて、水田転作時における新たな圃場排水性指標を開発する。

成果の内容・特徴

  • 水田転換畑で発生しやすい耕盤上の帯水に着目し、耕盤直上で1時間毎に連続測定した土壌水分の変動を解析に用いる(図1)。圃場排水性指標は、以下の2種類の解析手法を組み合わせた指標である。1つ目は飽和状態の体積含水率(以下、θとする)に対して、飽和状態に達して排水開始されてから24時間後のθの割合である。排水開始の起点は、飽和状態に達した後の最大θの95 %値を下回る時を起点とする。これは、速やかに排水されているかの「排水性」を表す。2つ目は観測期間中のθの最大値と最小値の変動幅である。これは、無降雨期間に作物に必要な水が保たれているかどうかの「保水性」を表す(図2)。
  • 上述の解析をA地区に適用する。A地区及び調査の概要は表1のとおりである。調査圃場を経営する法人は長年の経験に基づく各圃場の排水性に応じて排水対策の加減を調整している。指標を適用すると、同法人が排水不良の圃場に重点的に排水対策を実施している実態を定量的に把握できる(図3左)。また、隣接する圃場で、一方の圃場だけ本暗渠が自力施工されているペア圃場に適用すると、本暗渠の有無による圃場排水性の改善を定量的に把握できる(図3右)。
  • 2種類の解析で得られた値が小さいほど湿害リスクが高く、値が大きいほど干ばつ害リスクが高いと評価できる(図3)。なお、図2の体積含水率データを解析した結果が図3右である。
  • 本圃場排水性指標を用いることで、圃場排水性が定量的に示され、同一地域内の複数の圃場の排水性を直接比較することができる。排水対策の効果を定量的に把握できることで、圃場ごとの排水対策実施の優先度を判断する材料となる。
  • 飽和状態、圃場容水量の状態、乾燥状態の3つのタイミングのθを得られれば、作物栽培期間中の連続データでなくても、本指標を活用できる。この場合、土壌水分計を地表面からセンサの先端が耕盤直上に達するように垂直に挿して測定しても代用できる。ただし、垂直に挿す場合はセンサの測定範囲が小さい機種が望ましい。塩ビ管(直径10cm程度)を挿し横方向の水移動を制限した上で、水500ml程度の水を入れることで、測定範囲の土壌を飽和状態にすることができる。

成果の活用面・留意点

  • 水田転換畑であれば、栽培されている作物は問わない。
  • 同一地域内の圃場の排水対策の良し悪しを判断する指標として活用できる。

具体的データ

表1 A地区及び調査圃場の概要,図1 キャパシタンス式土壌水分計の設置方法の概略図,図2 圃場排水性指標の考え方,図3 圃場排水性指標のA地区への適用結果

その他

  • 予算区分:交付金、委託プロ(収益力向上)
  • 研究期間:2015~2019年度
  • 研究担当者:瑞慶村知佳、前川富也、長利洋、友正達美
  • 発表論文等:
    • 瑞慶村ら(2019)農業農村工学会誌、87 (9):19-22