「平成30年台風21号」によるパイプハウスの被害の特徴と対策

要約

2018年の台風21号によるパイプハウスの周辺気流は、隣接棟の存在、風向、立地条件の違いによって多様なパターンを示す。また、パイプハウスの構造強度は、建設された年や地域、日常のメンテナンスの有無に影響を受ける。気流性状や立地条件ごとにパイプハウスの強風対策は異なる。

  • キーワード:剥離流、再付着、法面勾配、地盤の飽和、断面欠損
  • 担当:農村工学研究部門・農地基盤工学研究領域・農業施設ユニット
  • 代表連絡先:電話 029-838-6669
  • 分類:研究成果情報

背景・ねらい

2018年9月4日に四国および近畿地方を縦断した「平成30年台風第21号」により、農業用ハウスは200億円以上の被害を受けた。過去40年以上にわたって顕著な強風被害が報告されていない、京都盆地および岐阜県飛騨地方においても、パイプハウスは多様な被災パターンを示した。被害を受けたパイプハウスの現地調査を行った結果から、気流性状およびハウス構造特性にわけて被災原因を特定することで、立地配置条件に応じた強風対策を明らかにする。

成果の内容・特徴

  • 風上側から押されることで側面のパイプが転倒(図1(b))する事例がある(図1)。これまで強風被害が少ない地域では防風ネットや防風林等の防風施設がなかったが、今後は防風施設が有効である。一方、風上側の障害物によって発生した気流は物体を引く圧力を有することから、施設が浮き上がることによって被害を生じる事例が少なくない(図2)。この圧力によって被覆材が破断する。浮き上がりの被害は、緩い地盤や鉄材が腐食したアーチパイプで顕著である。
  • 局所的、一時的な圧力の向きの逆転も留意する必要がある。今回の調査事例のように3~8棟規模のパイプハウス群についても、障害物によって上空に剥がれた気流が再び落下する。気流の落下地点付近では、押す圧力による屋根の陥没や側面の転倒が発生する。室内の圧力の変化も被災を助長する。ドアが破壊された出入り口等の開口部が室内へ引く圧力を増加させ、外から押される側面の転倒を促進する。防風ネットにより、圧力を減少させることが重要である。
  • 高所から落下する気流および障害物によって狭い領域に集まる気流による圧力で被災する事例がある。中山間地や隣接する構造物の配置条件によって、パイプハウスに吹き付ける気流は風向および風速が局所的に変化する(図3)。防風ネット端部に集中する気流が屋根面への過大な圧力の原因となった事例もある。
  • 余剰地表水の地中への浸透によって地盤の強さが低下しアーチパイプが地中で転倒する事例、引き抜きが助長される事例がある。腐食によるアーチパイプの破壊も少なくない(図4)。それらの直接、間接的な原因となる土壌水分の飽和に留意する。筋交いのないパイプハウスや強度の小さな接合部材を使用した棟でアーチパイプが傾斜する。ハウスの内部空間に干渉しない筋交いは妻面を押す圧力に抵抗する効果があるため積極的に活用する。

成果の活用面・留意点

  • 概ね15年に1度、風速が30m/s程度以上の地域において、立地配置条件に応じた強風対策をとることで、合理的な補強が可能になる。
  • 傾斜地近傍の落下する気流による屋根面を押す圧力は、気流落下地点の予測が困難であるため、極力その可能性のある土地を回避してパイプハウスを建設するか、梁によって屋根面を補強する。

具体的データ

図1 押す圧力によって側面が転倒する事例:防風ネット等により風速を減少させる、もしくは補強材によって軒部の変位を抑制する,図2 屋根面を引く圧力によってアーチパイプが引き抜かれる事例:引き抜かれたアーチパイプによって、風下側に隣接するパイプハウスに二次被害が発生している,図3 風上側の高所から吹き付けた落下気流によって屋根部が陥没した事例,図4 地表水の貯留によって地盤の強さが低下した事例

その他

  • 予算区分:交付金、競争的資金(科研費)
  • 研究期間:2018~2019年度
  • 研究担当者:森山英樹、石井雅久、土屋遼太、奥島里美
  • 発表論文等:
    • 森山ら(2019)農業施設、50:73-86